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年末と云うことで、今年自分が読んだ作品で面白かったものをご紹介。
といっても、メジャーな「かぐや様は告らせたい」とか「古見さんは、コミュ症です」などは紹介するまでもないので省略。どっちもアニメ化まだ〜? 多分両作品ともナレーションや吹き出しのアニメでの扱いがネックになってる気がする。「ゴールデンカムイ」のアニメはどうなんでしょうね。普通にアイヌグルメ漫画にした方が面白い気がするんですが、色々やらかしそうな予感。PV見る限りは面白そうですが、話の丁度良い切れ目がないのでどこまでアニメ化するのかも難しそう。
メジャータイトルであえて挙げるなら今年連載開始の「Dr.STONE」。現生人類が突然石化して3千年以上経って完全に文明リセットされてから復活して科学文明を再興しようとするする話。ある意味「なろう小説」の亜種とも云え、実際に主人公は科学文明の申し子なチートキャラですが、それくらいチートじゃないと生き抜けない設定ですので丁度いいバランスになっているかと。「なろう」系もここまで徹底すれば面白いんでしょうが、そうすると簡単に無双出来ないのとそもそも作者にそれだけの知識がないので普通の異世界ファンタジーになっちゃうんでしょうね。
ラノベだと「ようこそ実力至上主義の教室へ」。アニメ化決定の際に買い揃えてアニメ終了まで放置しておいたのですがアニメが丁度いい感じのところで終わったので原作の方を読んでみたところ、原作の方が遥かに面白い。ただ正確に云うと、アニメ化されたところまでは原作もさほど面白くない。アニメ化された部分以降ですね、本当に面白くなるのは。主人公、他作品で例えると「魔法の存在しない世界のお兄様(唯一守るべき妹もいない)」って感じ。特殊な環境で育ったので人間性が部分的に決定的に欠落していて、それが能力とのギャップでいい感じに出ているかと。最新刊の終盤はそれまで「貯めてきた」分、一気に解放されて思う存分カタルシスが味わえます。なおアニメではヒロインだった堀北さんは原作では完全に放置状態で、アニメでは本来の出番まで削られ完全な脇キャラに落ちてた軽井沢さん(CV.竹達さん)一押しになってたり。
以下マイナー作品からのご紹介で、まずは「第一話に全ステータス振り」作品を二作品「無能なナナ」「おくることば」。
多分作者が第一話のオチを書く為だけに設定作ったと思われるこの両作品。ネタバレ喰らってない状態で是非ご一読を(アマゾンレビューも読むまでは決して見ないように)。
にもかかわらず、前者は第2巻の帯でネタバレ、後者は当の第1巻帯でネタばらししているのはどういうものかと。編集者、何を考えているのかと小一時間問い詰めたい。
次の紹介は、最近流行ってる漫画家の自伝漫画の中から「そしてボクは外道マンになる」。
「ドーベルマン刑事」「ブラック・エンジェルズ」「マーダーライセンス牙」の平松伸二先生の自伝漫画。自分が初めてジャンプを買いだしたのが「ブラック・エンジェルズ」が超能力バトル化したくらいからで「ブラック・エンジェルズ」以降の打ち切り連続状態の作品群(ボクシング漫画とか野球漫画とか)も読んできたので興味を持って購入したところ、これが面白い逸話の連続。
岡山のど田舎の高校生が高校在学中に読みきりとはいえジャンプデビュー。高校卒業後は上京して当時ジャンプで連載されていた「アストロ球団」の中島先生のところでアシとして働いていたところ、先生が急病で突然代原をする羽目に。締め切りギリギリまで追い込まれても描けずに大嫌いの蛇の幻覚まで見てうなされても逃げなかった頃が漫画家としての人生の岐路だった・・・というモノローグは入るもののその後はあっという間に「ドーベルマン刑事」の連載に。てか突然担当編集者に後に「北斗の拳」を書くことになる武論尊先生のシナリオ渡されて「連載決定だ。描け」という急展開。当時は連載会議なんてなかった模様。あっても編集者で全部決めてた模様。
だけど「ドーベルマン刑事」を描きだしたものの編集者に「お前は外道が描けてない」と散々没喰らって「外道とはどういうものか身を持って知れ」ってことで歌舞伎町に行かされてチンピラに暴行されたり、刑務所に連れて行かれて連続殺人犯に面会させられたり・・・と流石にこの辺は虚構だとは思いますが、この担当編集者「情は深いがやってることは殆どヤクザ」な風に描かれていて「原作付で描いている間はお前を漫画家として認めねぇ」と罵られたり、連載中入院する羽目になった武論尊先生に「入院中も当然シナリオは書けるよな?」と云ったりしたシーンは多分実話でしょう。
てかこの作品で知りましたが武論尊先生って本宮ひろし先生の自衛隊時代の同期生だったそうで、除隊後、本宮先生のところに入り浸って麻雀三昧していたところ、ジャンプの編集者に「そんな暇そうなら漫画の原作でも書いてみろ」と云われて漫画原作者になったそうで。いや、この編集者、神過ぎでしょう。無職のプー太郎にシナリオ書かせようなんて普通は思わないわけで。この編集者がいなければ「北斗の拳」が存在しなかったと思うと、本当に日本の漫画の歴史を変えてます。
その武論尊先生が入り浸っていた本宮先生もこの漫画に登場してまして、初登場シーンではいきなり日本刀片手にジャンプ編集部に乗り込んで「俺たち漫画家のお陰で食えてるくせに漫画家を見下してくる編集者を飼ってるのはどういう了見だ?」と啖呵切ってます。まあ平松先生はガチの本宮ひろし信者だそうなのでわざわざ脚注つけて「チョット媚びすぎたかな(笑)」と断ってるのでこちらも虚構なんでしょうが、編集部に怒鳴り込みくらいは本当にやってそう。
こんな中「ドーベルマン刑事」の連載は続いていくわけですが、当初はアシスタントに散々陰口を叩かれたり、待遇の悪さに集団脱走されそうになったり(当時からジャンプ連載の原稿料だけではアシスタントの机すら買えなかった為に編集部に借金までしてます)したもののなんとか連載は続き、頑張っているご褒美に取材を兼ねた沖縄旅行に行かせてもらうことに。
で、生々しいのがその沖縄の風俗街で「筆おろし」して貰ったシーンまで描いていること。漫画家の自伝とはいえ、自分の筆おろしシーンまで生々しく描く人は普通いないと思うのですがw。
そうして女も知って、原稿のイライラの解消のために煙草中毒になったりと岡山の田舎出身の純朴な少年が段々大人になっていくわけですが、この辺で「ドーベルマン刑事」の人気が落ちていきます。そこで初代の担当編集者が「担当が代わることになった」と連れてきたのが若手編集者ドクター・マシリトこと鳥嶋和彦。
云わずと知れた鳥山明を見出し、本人自身「Dr.スランプ」でも、比較的最近では「バクマン」でもキャラとして登場しているあの日本一有名な編集者。自分の世代だと野沢那智さんの声で、人の癇に障る、甲高い怪鳥のような声で笑うのがデフォですが、これはどうやら実際ご本人がそういう声で笑うようで。
だけどこのマシリト、開口一番「僕は前編集者と違って情が深くないから締め切り破ったらすぐ見捨てるよ」「これが最新のカラー原稿? こんな暑苦しい塗りは受けない。色塗りはアシにでも任せなよ」と云いたい放題言った挙句「今のドーベルマン刑事は暑苦しすぎ。女キャラ入れてラブコメ要素もつっこもう。もう武論尊先生にはその方向でシナリオ依頼済み」と勝手に作品の方向性まで変えてしまいます。それでいて「僕、漫画好きじゃないし、殆ど読まないんだよ」とまで平気で云っちゃいます。
それでも最初は黙って反発せずにいたところ、出来上がってきた武論尊脚本は確かに面白い。というところで「平松君にこの新女性キャラを描けるかな」と挑発。
で、何度も何度も描くものの「ボツ」「ボツ」「ボツ」の連発。「じゃあ、どう描けばいいんですか」と遂にキれると「それを考えるのがキミの仕事」と平然と切り捨てて「ちょっと出てくるからその間に描いといて」。
そこで平松先生、高校の同級生で漫画家になった後、向こうから連絡をくれて付き合うようになった岡山の彼女にアドバイスを貰って当時人気だった榊原郁恵似のキャラを描きます。
すると今度はあっさり一発OK。「よくこのキャラが描けたね」と云われたので事情を説明すると今までの酷薄な態度が一変。「彼女は大事にしなきゃね。男は好きな女性の笑顔のために仕事するんだから」と励ましてきます。
正直こんな編集キャラを創作したら「キャラ造詣が変」とか云われそうですが、実際にそういう人間がいたのだから面白いところ。実際この路線変更の結果「ドーベルマン刑事」は人気を回復していきます。
偶に漫画やラノベで「自分には創作能力が全くないし、その手の作品が好きですらないのに、売れる作品の傾向だけは分かる」という編集者やプロデューサーが登場しますが、アレって実際存在するんだなあと(この手の人種は、宮崎駿や富野御大の云う「アニメばかり見てきた人間に本当にいい作品はできない」というのとはちょっと毛色が違うタイプだと思う)。最近の作品だと「冴えない彼女の育て方」の伊織がそうですね。
で、この話には続きが、というか一気に話が現代まで飛んで現在は白泉社の社長をしているマシリトのところに自分の漫画への登場許可を貰いに行く所まで描かれます。
「ボクの悪口がいっぱい書いてあるけど、まあいいんじゃないの?」とあっさり許可しつつ「でもこの漫画面白くないよ。伸二がこんないいヤツな訳がない。もっと外道にならないと」と。
「流石マシリト分かってやがる」と自分自身に独白させて次の第3巻に続くので、どうしたらここから「出てくる女キャラはモブもヒロインですら外道にレイプされて殺されるのが定番漫画家」になっていくのか、楽しみです。
ちなみにマシリト、確か「バクマン」の頃までは集英社の代表取締役だった筈なのに白泉社の社長となった今では「今こそジャンプを打倒するチャンスでその為の若手育成で忙しいの。だからロートル漫画家なんて眼中にない」とのたまわって昔と変わらぬ甲高い声で高笑いしているのですが、こっちも多分実話そのまんまなのでしょう。本当に漫画に出てくるキャラより面白い実在の人物っているもんだなあと。
そんな感じでストーリー、殆ど全部書いちゃいましたが、最近の平松作品は松田さんを蘇らせ滅茶苦茶やったり、他の作品も正直どうにもならない出来だったりしましたが、今回のこの自伝漫画は面白いので興味が出た方は是非ご一読を。
最後は講談社学術文庫の人気シリーズ「興亡の世界史」より「アレクサンドロスの征服と神話」。
タイトル通り、アレキサンダー大王の生涯を描いた一冊。従来アレキサンダー大王関連の歴史書の大半って大王の目的を、征服地に築かせた都市群アレキサンドリアなどを根拠に「東西文明の融合」と「世界帝国の創造」とか「高貴なもの」と捉えて描くことが多いですが、この筆者は様々な文献を読み漁った結果、違う結論に達します。
物凄く簡潔に云うと「アレキサンダー大王は神話の神々と自分を同一化したくてひたすら征服を繰り返した」。元々アレキサンダー大王の家系は先祖を辿ると、ギリシア神話の神々に連なる一族で、そのことがアレキサンダー大王の精神の根源を占めていた、と。
もっとぶっちゃけて云うと「Fate/Zero」で描かれた征服王イスカンダルそのまんまですw。
てか、この本の原本の出版時期と手に入りやすさからして虚淵さんがこの本を読んでいる可能性は極めて高いと個人的には思ってます。征服王イスカンダルの細かいエピソードも殆どこの本で網羅してますし。
しかしイスカンダルも神々の末裔なんだから、自分自身も純血じゃないギル様に雑種呼ばわりされるのは遺憾の意を表しても不思議じゃなかったろうになあとw。
というわけで、普段学術文庫などを読んだこともない方も「Fate/Zero」ファンなら是非ご一読を。