Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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【#現代ビジネス】韓国・文在寅は何がしたかったのか…「GSOMIA騒動」が与える影響

韓国は何がしたかったのか?
 韓国が8月23日に延長中止を申し入れ、11月23日午前0時で失効する予定だった日韓の日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)は、韓国政府の決断により、失効することを免れた。

 韓国の金有根(キム・ユグン)国家安保室第1次長は記者会見で、GSOMIAを終了はいつでもできるという前提で、破棄の効力を停止すると述べている。

 さらにキム次長は、韓国政府の決断に対して日本政府も理解を示したと述べ、輸出管理政策の対話が正常的に進行される間、日本を提訴した世界貿易機関(WTO)の手続きを停止する、と説明している。

 韓国は、日本による特定三品目の輸出管理厳格化と、韓国の「ホワイト国」指定の格下げに反発し、GSOMIAの破棄(正確には協定更新の停止による失効)を含む一連の対日報復措置を発動し、日本に対する「怒り」を表した。

 もちろん、日本が韓国に対して一連の措置を発動するには理由があり、グローバルな大量破壊兵器不拡散における韓国の政策への不信が、これら措置の発動の背景にあったのは言うまでもない。

 しかし韓国側は、日本の決定の背後には、徴用工問題などへの韓国政府の対応に対する不満があり、一連の措置は報復行為であるとして、二国間の交渉及び国際社会の場で日本に対する非難を繰り返してきたのである。

 今回の決定では、条件付きとしているが、実質的にはGSOMIAの失効はなくなり、無期限延長されると考えてよいだろう。

 韓国は輸出管理に関する日本との対話の正常な進行されることにこだわっているが、韓国の輸出管理の不備や疑問点を問いただしてきたのは日本側であり、この問題が発生するまで韓国は日本の要請を無視してきた経緯がある。

 したがって、対話の進行ということは、実態的には韓国が日本に対して誠意を示すことを意味する。つまり、韓国は輸出管理に関する日本側の要求に従い、そしてGSOMIAを失効させない(韓国が主体的に対話を維持する限り)ことを、日米に対して約束したことになる。

 さらに言うと、今後韓国は、輸出管理や歴史問題で日本との対話を拒否する場合、GSOMIA失効の効力を復活させる、ということになる。このため、韓国は背後に「崖」を背負って交渉することになり、日本の交渉上の立場は強まった。

 ここに至るまでの一連の応酬の中で、おそらく韓国政府は当初、日本が簡単に妥協すると考えていたのであろう。それは、韓国政府がとった措置に見て取ることができる。それらはいずれも、日本に圧力をかけるときの伝統的な手法であった。

 しかし、ここまでの経緯を見ると、文政権は見通しを誤り、日本側に「面子」を配慮してもらうよう、依頼するしかない状態に追い込まれた。日韓関係の変化を理解できていなかったとしか思えないように迷走したのである。

対日圧力の方法について
 韓国が日本に圧力を加える手段は、大きく分けて三つの領域で展開された。

 一つは社会的圧力である。一般的に日本国民は、少なくとも近現代の歴史の中で、朝鮮半島に対して親近感とパターナリスティックな感情を同時に抱いてきた。近年では、身近な海外として憧れの感情を抱く人も多い。

 したがって、日本の一方的行動により、韓国の国民が「怒っている」あるいは「困っている」姿を見せることで、日本国内に「大人の対応」を求める声が高まることを韓国は期待したのであろう。この方法は、これまで多くの成果をあげてきたものでもある。

 GSOMIAの問題でも、韓国の苦境を救うために日本が我慢すべきとの主張は見られたが、かつてほどの影響力は失われていた。

 二つは、米国の圧力である。文大統領も触れたように、日本にとって韓国は、大陸方面からの防波堤の機能を果たしてきた。結果的に日本は過大な負担を背負わされることになるが、20世紀初頭には、日本は朝鮮半島を併合してまで防波堤の機能を重視してきたのである。

 第二次世界大戦後は、その防波堤を強化する上で、米軍のプレゼンスが不可欠な役割を果たした。韓国は日本の地政学的弱点と、現在の憲法上の制約を理解しており、周辺事態への対応において、米国に依存せざるを得ない日本の急所を狙ったのである。

 実際これまで日本は、朝鮮半島問題等をめぐる情勢変化の中で、米国の要求を受け入れて政策を変更してきた。

 米国は日本に対して、朝鮮戦争の際には自衛隊の創設を(自国防衛と国内の治安任務を日本が実施するために)、冷戦期は作戦計画に応じて米軍の駐留を(朝鮮半島での作戦計画において、日本は戦略的な後背地として役割が求められた)、そして冷戦後は米軍との共同作戦への参加を(周辺事態法や日米安全保障協力のガイドラインを通じて)、それぞれ求めた。

 この歴史を理解している韓国は、米国が日本に圧力を加えるように、米国の戦略を「人質」にとったのである。

 GSOMIAは米国とって、非効率で非合理的な北東アジアの安全保障協力を健全化し、日米韓の三ヵ国が、同盟関係にまで発展しないにせよ、情報協力を通じて能力の相互補完が可能となる重要な措置である。

 また、北朝鮮問題の先に、中国やロシアとの戦略的対立の激化が予想される中で、日韓両国は重要な安全保障上の資産でもある。日韓両国の対立は、米国に選択を迫る結果になり、協力関係の相乗効果が失われる。繰り返し指摘されるように、韓国は日本との諍いで、米国による仲裁を期待したのである。

 ただし、韓国にすると、米国の仲裁は日本に対する圧力に転換されなければならず、自国への一方的要求になるとは想像していなかったのであろう。

 日韓GSOMIA破棄を回避するため、11月22日の破棄期限直前に、国防総省の長官をはじめとする軍事・安全保障や、地域政策の部門の高官が文字通り総がかりで文大統領の説得に動いた。

 米国は文大統領の希望通する日本の説得には動かず、米国の圧力を使用する戦術は、逆に自分に対する極めて強い圧力として返ってきた。

 米国は米軍の韓国への駐留経費の負担増、さらにはGSOMIA破棄が露中や北朝鮮の利益に貢献すると直接指摘するなど、「レッドチーム」入りのコストの高さを見せつけ、韓国の譲歩を迫ったのである。

 対日圧力の三つは、国際世論を通じた圧力である。韓国は「国際世論戦」に長けており、宣伝戦や国際機関の場におけるアピールにおいて日本は劣勢に立たされることが多い。朴槿恵大統領時代のそれを、日本は「告げ口外交」と呼んだこともある。

 実際、安全保障貿易管理問題が浮上した直後、韓国は政府のHPに複数ヵ国語で主張を掲載している。この背景には、日本が国際社会との協調を重視する余り、強い主張に屈する傾向があることを知っているのである。

 今回の問題では、国際世論戦に加え、日韓の戦いはWTOの紛争処理の場に持ち込まれ、GATT1条、11条、そして21条が争点となった。

 WTOでの提訴において、韓国はホワイト国除外ではなく、三品目の輸出管理厳格化を争点とした。

 GATTの条文上での解釈は他の論考が詳細に説明しているが、実は日本にとって重要なのは、今回の輸出管理厳格化が第21条の安全保障のための例外の要件に適合するかどうかである。

 韓国はWTOの手続き停止を表明したため、この重要な問題が「生贄」になることが当面避けられた。

 GATT21条の例外要件に基づく輸出管理の正当化事由を争点とすることは、国際社会、中でも不拡散などの目的で安全保障貿易管理を推進してきた西側社会の政策を、大きな危機にさらす行為であった。

 技術保有国が安全保障目的で輸出管理を実施する際、不拡散レジームが使用するリスト品目を国内制度に適用するケースが大部分である。しかし、WTO協定上、これら不拡散レジームの法的立場は弱い。

 このため、韓国がWTOで日本に勝利した場合、他国も同様の申し立てを行い、不拡散レジームに基づく規制の正当性が問われかねない事態であった。

 つまり韓国は、不拡散に関する国際秩序の法的正当性を危険にさらすことで、国際社会全体が日本の妥協を求めざるを得ない構図を作ろうとしたのである。この点は、余り注目されることはないが、今回の対立がもたらす重大な危機であった。

韓国の挫折
 しかし、11月22日のデッドラインになっても、これらの圧力が機能せず、日本が政策を変更しないことが明らかになり、韓国は大きな挫折を味わうことになった。

 日本は安全保障貿易管理に関する実務者交渉の再開に合意するなど、一応韓国の「顔」を立てたが、今後韓国は日韓関係に真剣に向き合う必要が生まれた。

 さらに、米国が苦労して作り上げてきたGSOMIAに関する協力体制を揺さぶり、米国の戦略的利益を手段として活用したコストも、今後大きく韓国の外交安全保障政策にのしかかることになるだろう。

 日米の安全保障関係者は、日韓GSOMIAの破棄で一番得をするのは北朝鮮や中国、さらにはロシアであると警鐘を鳴らしてきた。安全保障貿易管理にかかわる日本の政策変更を求める上で、日米韓の安全保障協力の実質的な内容の一つであるGSOMIAを破棄することは、釣り合わない取引であるとも指摘していた。やっと最終段階で文大統領は、日本に対して妥協し、賢明な選択をしたのである。

 徴用工裁判や、オバマ政権の下で合意された慰安婦合意の破棄など、日韓の間に横たわる問題は、短期的に解決が期待できるものではない。

 安全保障貿易管理において日本が韓国に求めていたのは、輸出管理当局間の真摯な対話と、日本側の疑問に対する問い合わせに、十分な体制を整備した上で、専門的で誠実な回答を行うことだけであった。

 この問題でさえも、日米韓の安全保障協力の象徴を破壊する寸前にまで至った。その意味で、今後も韓国が瀬戸際戦略をとる可能性は否定できず、しかしそれに対して、日本は「大人の対応」をするのではなく、「普通の」国家同士の関係を望む傾向は強まる。これは、朝鮮半島併合の歴史に関する「贖罪意識」世代の第一線からの交代と合する。

 今回なぜ韓国が挫折したのか、という問題を考えると、そこには文大統領の性格も関係ある。GSOMIA延長の発表は、大統領本人ではなく、金次官が行っている。事案の性格も関係するが、「ナルシスト」の一面もある大統領には、メディアの前で国民に挫折を受け入れる姿を晒すのは耐えられなかったのだろう。

 冷静に考えると、文大統領は大統領選挙期間中からGSOMIAの破棄を政策として掲げており、日本の安全保障貿易管理の強化の機会を捉え、それを実現する合理的な状況と認識したとしても不思議ではない。

 それの失敗を認めることは、自身の支持者に対する背信でもあり、苦渋の選択であったことも理解できる。そして、今回日米両国から「イエローカード」を突き付けられた意味は大きく、どれだけ「条件付き」の延長を主張しても、外交での立場は極めて弱くなった。

 韓国の中国に対する「三不一限」の約束は異様に感じるが、韓国が今後本格的に「レッドチーム」に鞍替えすることを望んでいるようには見えない。したがって、今後文大統領は、国内政治の圧力を利用しつつも、自国の戦略的な立ち位置の判断を間違えないようにする必要がある

 では、このような状態の韓国を前に、日本の政策について展望する。

北東アジアのパワーゲーム
 まず、日韓関係から展望しよう。

 韓国が日本に対して抱いている不満の背景には、安倍政権の下で進められた韓国に対する「戦略的無視」がある。日本がこの姿勢を維持する限り、日本は韓国に対して「普通の国家」関係を求め続けるだろう。

 韓国を無視する背景には、日本にとって韓国の戦略的価値に比べて、関係維持のコストが高いという現実がある。文大統領の言葉を借りるとすれば、韓国が「防波堤」の役割を再確認すれば、再び日本は韓国に価値を感じることになる。

 GSOMIAの破棄は、韓国が自らその価値を貶めるものであり、日本の「戦略的無視」を解消する効果は生まない。しかし今回の延長により、とりあえず日本は韓国の価値を再発見することができた。

 韓国の存在、さらには米韓同盟の存在が、憲法を含めた日本の政治体制の維持や、より直接的には防衛費の抑制に大きな意味があるのは事実である。日本は現在の状態を継続することに利益がある。

 河野太郎防衛大臣が指摘するように、韓国の国防費は年率7%で増加しており、2024年には日本の1.5倍に達するという現実を考えると、韓国が日本との協力関係の下にある場合は、これが日本の安全保障上の資産にもなる。

 しかし、日韓関係が悪化し、日本が防衛ラインを対馬海峡にまで下げなければならないような事態が生まれた場合、現在の「戦略的無視」は将来的に日本に大きなコストを生むことになる。

 そしてこれは、韓国にとっても同じ構造となる。韓国が「レッドチーム」に入ることを決断するのであれば、日本を潜在的脅威とみなすことになるため、北東アジアの戦略環境は一気に流動化する。

 韓国では、統一朝鮮を実現して核兵器保有国に発展や、戦略原子力潜水艦の建造(日本に対する打撃力を持つ目的で)など、物騒な主張が人気を集める。

 それらに実現可能性があるとは思えないが、河野大臣が指摘するように、日本の1.5倍の国防費は無視できないものがあり、何の目的で、どう使われるのかを、日本は慎重に監視する必要がある。

 次に、米国のインド太平洋戦略について考える。

 インド太平洋戦略の一つの目的は、将来の米中関係を考慮したものであることは言うまでもない。米中関係が、かつての冷戦のような、イデオロギー上の政治体制と地政学を兼ねた、包括的な対立に発展するかどうかは不明である。

 中国は、政治体制としては社会主義を維持しているが、実質的には資本主義を受け入れて、国際経済のルールの下で活動している。

 しかし、米中技術摩擦にみるように、米国が中国を「普通」の資本主義国家と見なしておらず、潜在的には対立関係が発展する可能性が高い。

 そのような米中関係の下で、朝鮮半島の動向が国際政治の焦点となっているのは言うまでもない。

 THAADのレーダーの問題等に見るように、米国にとって韓国の存在は、大陸に向けた橋頭保とも言えよう。もし今後米国と北朝鮮との関係が変化すれば、米国は中国に対してより大きなレバレッジを持つことになる。

 逆の意味で、もし米国が韓国を失うことになれば、米国は戦略態勢を大きく後退させ、日本との安全保障協力をこれまで以上に深化させるか、海洋戦略の再構築を迫られることになる。米国にとっても、これはコストが大きいものになる。

 これらの要因を考えると、日韓が対立し、米国が両国を安全保障上の資源として円滑に使用できなくなることの意味は大きい。

 極端な表現を用いるとすれば、すべての国が「損」をするのが明確なのである。文大統領は、この構図を十分理解していることだろう。

 今回はそれを、日本に対して高く売りつけようとしたが失敗した。かといって、今後そのように動かない保証もないのである。

民主主義の功罪
 いうなれば、GSOMIAの失効回避に際し、韓国は民主主主義の「喜劇」とも呼ぶべき状況に陥っている。

 社会的アイデンティティを背景とした民意を反映した外交・安全保障政策が理想的なのは言うまでもない。民主主義国は、民意を政治制度と政治過程を通じて実行しようとする。

 しかし、政治体制の如何を問わず、国家として存在している以上、国家の利益を追求する必要がある。この二つの必要性は、往々にして対立的な関係を生む。民意と国家は、異なる方向を向くことが多い。このため、民主主義国家の政治指導者は、時に批判されつつ、国家全体の利益を選択することが求められてきた。

 文大統領は短期的な政治利益と、長期的な国益を天秤にかけ、自身が批判される可能性があるにもかかわらず、賢明にも国家としての合理的な決断を行った。

 しかし、非合理的で感情的な決定を行う可能性がある政治指導者という烙印が捺された意味は重く、韓国内では日本から対話の再開を得たと勝ち誇ることはできても、少なくとも日米両国からは「愚かな」政治指導者であり、信頼できないパートナーと見なされることになる。

 実際、日韓の間でGSOMIAが存在するとしても、共同作戦を想定していないため、それほど実効的な意味はない。

 やはりこれは日米韓の三ヵ国の協力関係の中に存在することに意味があり、韓国以外のパートナーからの信頼が欠けることにより、今後はたとえ協力関係があるにせよ、韓国の相対的な役割は低下していくことになる。

 韓国世論は、自国の「軽さ」に我慢できなくなるだろう。そして、その不満が日韓関係の何に向かうか、日本は慎重に見極める必要があるのである。

佐藤 丙午