Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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【#現代ビジネス】韓国を襲った「新型コロナと新興宗教」のヤバすぎる現実

「本当に申し訳ございません。どうお詫びの言葉を述べればいいのかわかりません」
 宗教施設内で新型コロナウイルスの大規模な集団感染のあった、韓国の新興宗教団体「新天地イエス教会」(以下、新天地)のトップであるイ・マンヒ総会長は3月2日に記者会見を開き、その最中に2度、土下座をしてみせた。
 しかし、メディアが集中して報道したのは、土下座よりも彼の「腕時計」の存在だった。

 彼の腕には「朴槿恵(パク・クネ)」と刻まれた時計がはめられていた。弾劾された朴槿恵政権時に大統領府を訪問した人に進呈される記念品だが、模造品だという話もある。いずれにせよ多くの国民が注目している記者会見にこの腕時計をはめてきたのだ。

9割の感染が新興宗教の拠点地で
 2月18日、韓国で31番目となった新型コロナウイルスの感染者が陽性診断を受け、行動歴を調べたところ、大邱(テグ)市内にある新天地施設での数百人規模の礼拝に参加していたことがわかった。
 後に、礼拝に参加した人々の集団感染がわかり、その後、1日に数百人規模の感染が確認されるようになった。
 現在、韓国では8000人近い新型コロナウイルスの感染が確認されているが、集団感染によるものが80%で、そのうち60.9%が新天地と関連しており、また新天地の拠点である大邱地域の感染者が全体の90%を占めている(3月11日、韓国政府の中央防疫対策本部による定例会見)。
 韓国では早い段階で、徹底した防疫政策がとられ、1月末の段階で接触者の隔離や、地域によっては大人数のイベントなどの中止が呼びかけられていた。
 収束に向かうと見られた矢先の出来事で、数百人規模の礼拝を行っていたことについて、世論は怒りの声であふれた。
 さらにこの団体は、礼拝に参加したことを口止めするだけでなく、公的機関が信者の名簿を求めたところ、正確でない情報を提出するなどの隠蔽工作を行ったことが問題となっている。
 ソウル市は同団体のトップであるイ・マンヒ総会長と責任者らに対し、殺人罪と傷害罪、そして感染症予防管理に対する法律違反の疑いで、ソウル中央地検に告発した。
 新天地の行動は、「空気の読めない宗教団体暴走」という一言では説明のつかない歴史的背景にある。
 それを象徴するのが冒頭の「朴槿恵時計」だ。

朴槿恵時計」の意味
 放送局YTNのメインアンカーであるピョン・サンウク氏は、新天地の問題を15年以上取材してきた韓国で最も詳しい専門家の一人だ。
 彼はラジオのトーク番組内で、イ・マンヒ総会長のはめていた「朴槿恵時計」について、こう解説している。
 「彼は(軍事独裁政権だった)李承晩(イ・スンマン)、朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領を最高の存在と考えている」「次に共に食事をした(朴正煕の娘である)朴槿恵元大統領です」
 ピョン氏はメディアの取材に対して、新天地が2007年に信者たちをハンナラ党の党員に加入するよう指示したことがあり、幹部が選挙活動に参加していたこともあるとコメントしている。ハンナラ党は現在の自由韓国党の前身で、かつて朴槿恵元大統領が党首を務めたことのある党だ。
 韓国キリスト教会と保守勢力の関係を理解するには、キリスト教の連合体である韓国基督教総連合会(以下、韓基総)について知る必要がある。

「集会の中止は政治的圧力だ」と訴える牧師
 現在、新天地と韓基総とは犬猿の仲にある。新天地が他の教会にメンバーを潜り込ませ信者を獲得してきた経緯があるからだ。しかし、この二つの団体は、保守的なキリスト教という点で重なる。
 新天地信者の集団感染が確認された数日後、韓基総は3月1日にソウル市庁広場での大規模集会の開催を宣言した。同団体には2月中にも数度、集会を開いている。
 ソウル市は集会の中止を求め、朴元淳(パク・ウォンスン)市長は同団体の会員は新型コロナウイルスの感染リスクの高い高齢者が多く、集会はすべきでないと訴えた。
 それに対し、韓基総の総長であるチョン・グァンフン牧師は、「屋外での集会は感染しにくい」とし、集会を妨害したいがために市長が難癖をつけているだけだと反発した。
 チョン牧師はソウル市による制止を、進歩派の朴元淳市長による“政治的圧力”だと主張したのだ。
 結果的にチョン牧師が選挙法違反で2月24日に逮捕されたため、集会は中止となった。
 韓基総は2013年に内部分裂し、規模が縮小したが、それまでは韓国で最も大きなキリスト教系団体だった。現在ではキリスト教会の中でも極右系教会だけが残っている。

現政権をまったく信頼していない
 2017年、私人に国政を介入させたことで朴槿恵元大統領が弾劾された際、弾劾に反対する保守勢力の大規模集会が行われたが、集会の中心の一つとなった団体が韓基総だった。彼らは韓国の国旗と共に星条旗を掲げ、弾劾反対を訴えた。

 彼らの「反共主義」の根は朝鮮戦争の時代にまでさかのぼる。

 現在の北朝鮮エリアにはかつて、米国人宣教師によって建てられた教会が数多く存在した。朝鮮戦争が起きると、彼らは南方に逃げたのだが、その教会が韓基総を代表とする韓国の保守キリスト教会の母体となっている。南北和平などもってのほかで、彼らにとってマッカーサーは「韓国を共産軍から解放してくれた英雄」なのだ。

 親米・保守系キリスト教会らは朴正煕政権を支持し、政府が大統領の再選を認める憲法改正を提案すると、進歩派のキリスト教会が民主主義に反するとして反対したが、彼らは改憲に賛成した。朴政権も親米・保守のキリスト教会をバックアップした。

 韓基総が結成されたのは1989年。進歩派のキリスト教連合体である「韓国基督教教会協議会」が88年に「反共主義を反省し、南北和平を」と呼びかけたことに対抗するために立ち上げられた。

 韓基総の集会中止をイデオロギーの問題にすり替えられてしまうには、このような歴史的背景があるのだ。

 2つの団体がこの騒動の中でも礼拝や集会を開こうとしたのは、「強い宗教的な信仰心」だけでなく、現在の進歩政権をまったく信頼していないことが共通して根底にある。彼らは進歩政権の政策に従う気などさらさらないのだ。

金 香清(ライター・翻訳家)