Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

【#WIRED.jp】新型コロナウイルスのワクチン開発は、いま実用化を目指して猛スピードで動き始めている

中国の研究者が新型コロナウイルスのゲノム配列を解読してから、約4カ月が経った。この4カ月の間に、「SARS-CoV-2」と名付けられた新型コロナウイルスが原因の致命的な呼吸器疾患である新型コロナウイルス感染症「COVID-19」と診断された人は、世界中で少なくとも400万人、5月12日朝の時点で死者数は28万4,000人を超えている。

心臓や腎臓、脳、肺を損傷する可能性がある新型コロナウイルス感染症の重い症状から患者を救うために、医師はマラリア治療薬や抗インフルエンザ薬、エボラ治療薬にいたるまで、多くの既存の薬剤を試してきた。しかし、特効薬はまだ見つかっていない。研究者たちは治療法を求めて何百種類もの候補薬の試験を続けている。

期待されるワクチン開発の現在
さらに期待されるのがワクチンの開発だ。ワクチンによって免疫システムは体内に侵入したウイルスを認識し、症状が出る前にその影響を回避できるようになる。こうして予防接種を受けた市民は職場へ戻り、自宅待機を解除し、通常の生活を再開できる。

新しい病原体に対する安全で効果的なワクチンの開発には、一般的に数年かかり、数十年かかることもある。実験的な治療とは異なり、ワクチンの有効性をすぐに判断することは不可能だからだ。

研究者は臨床試験中、被験者が普段の生活のなかで自然に存在するウイルスに暴露するまで待つ必要がある。人々が外出を自粛している場合やアウトブレイク(集団感染)が収束した場合、被験者がウイルスに暴露するまで非常に長い期間を要することもある。

治験(臨床試験)は一般に3段階に分けられる。数十人の健康なヴォランティアが参加する第I相(フェーズ1)、アウトブレイクが発生している地域で参加者を数百人に拡大する第II相(フェーズ2)、数千人の参加者で再び実験を行う第III相(フェーズ3)だ。その後、米食品医薬品局(FDA)の担当者がデータを検証し、ワクチン接種の安全性と効果が承認基準に達しているかどうかを審査する必要がある。

しかし、世界的なパンデミックに直面している現在、科学者、製薬会社、および規制当局は、前例のない猛スピードで何百種類ものワクチン候補を試験している。臨床試験のデータがないと、次々に実施される試験からどのワクチン候補が最も有望かを予測することは不可能だ。先頭を走る開発者たちは、そのデータを2020年秋にも手に入れられる可能性がある。

こうしたなか、開発の最前線では何が起きているのか。ワクチン候補の臨床試験の状況について知っておくべきことをまとめた。

第II相のワクチン候補:認可を取得したモデルナが、オックスフォード大学とカンシノ・バイオロジクスに並ぶ

ボストンにあるバイオ製薬会社のモデルナが5月7日(米国時間)、ワクチン候補「mRNA-1273」の第II相試験開始をFDAから承認されたと発表した。今後数週間で600人の参加者の登録を開始する。第II相試験では、人の免疫システムに新型コロナウイルスを認識させる抗体の産生を、ワクチン候補が促すかどうかの評価を開始する。

モデルナはFDAから第II相試験開始を承認されたことで、新型コロナウイルスのワクチン開発を現在リードしている英国のオックスフォード大学ジェンナー研究所と肩を並べる。4月に『ニューヨーク・タイムズ』が報じたように、ジェンナー研究所の科学者たちは有利なスタートを切っていた。中東呼吸器症候群(MERS)の原因となる近縁のコロナウイルスに対する類似ワクチンのヒト臨床試験から、すでに安全性データを入手していたからだ。

オックスフォード大学の研究者は、英国でアウトブレイクが猛威を振るっている間に6,000人を対象とした大規模な第II相臨床試験を推し進めるように英国の規制当局を説得した。このワクチンのベースにあるのは、無害なウイルスの遺伝子を改変し、新型コロナウイルスに類似したウイルスをつくり出す技術だ。つくり出されたウイルスは病気を発症させることなく、免疫応答を誘発することができる。

モデルナのワクチン候補は、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)の科学者と共同開発された。メッセンジャーRNA(mRNA)を利用したワクチンなので、名称に「mRNA」が含まれている。メッセンジャーRNAには、細胞のたんぱく質合成工場にさまざまなたんぱく質をつくるための遺伝情報を伝達する役割がある。

モデルナのワクチンに含まれるメッセンジャーRNAには、新型コロナウイルスが人の組織に感染するために使用するスパイクたんぱく質の一部をつくるための情報が含まれている。ワクチン接種者の細胞にこの部分的なスパイクたんぱく質を合成させることで、免疫システムに新型コロナウイルスを認識させ、再度ウイルスが体内に侵入しときに攻撃するように訓練するという原理だ。

mRNAワクチンはまだ新しく、これまで使用が承認されたことはない上、大規模に製造されたこともない。しかし、3月に開始されたモデルナの安全性確認のための第I相試験(人のヴォランティアに初めて注射された新型コロナウイルス感染症ワクチン)は順調に進んだようで、FDAが第II相試験へ進むことを承認した。

モデルナの最高経営責任者(CEO)であるステファン・バンセルは『WIRED』US版に宛てたコメントのなかで、第II相試験開始を承認されたことついて、同社が2020年夏に極めて重要な第III相試験を開始する計画を可能にする「重要なステップ」だと語っている。モデルナは早ければ2021年に承認を得たいと考えているが、治験の結果を待たずに増産を開始する。

モデルナは5月1日(米国時間)、スイス製薬大手ロンザとの10年間の提携を発表した。この提携でワクチン生産を2020年には1カ月あたり数千万回投与分、2021年には数億回投与分にまで拡大する予定だ。

モデルナが初の治験ワクチンをヴォランティアに投与した日に、中国のカンシノ・バイオロジクス(康希諾生物)は2種類のワクチン候補の第I相試験を開始する認可を得た。同社の2種類のワクチン候補はオックスフォード大学のワクチン候補と同様に、新型コロナウイルスに類似するように遺伝子改変した無害なウイルスヴェクター(遺伝子の運び手)を利用して免疫応答を誘発する。4月にワクチン候補のひとつの第II相試験が開始され、湖北省の研究者は現在、治験の参加者を500人募集している。

第I相のワクチン候補:さらに2種類の遺伝子ワクチンで安全性試験が開始

そのほかにも、初期の段階だが有望性を示しているワクチンが存在する。5月4日(米国時間)には、ニューヨークの15人の健康なヴォランティアが、モデルナのワクチン候補に類似のmRNAワクチン「BNT162」の最初の投与を受けた。

ファイザーとドイツの製薬会社ビオンテック(BioNTech)が共同開発したBNT162は、新型コロナウイルスと戦うために2社が共同開発している4種類の遺伝子ワクチン候補のひとつだ。今後数週間にわたって、第I相試験では4カ所の異なる研究病院で360人の参加者を登録し、4種類の遺伝子ワクチンの安全性をプラセボ(偽薬)と比較して確認する。

研究者は今後2年間にわたって治験参加者を観察し、副作用の兆候や、新型コロナウイルスに対して身体が産生する抗体を調査する。しかし、ほとんどの有害な反応はすぐに起きるので、科学者はワクチン候補が安全であるかどうかを3~4カ月で把握できるはずだ。また、4種類のワクチンのうち、どれが最も効果がありそうかも判断できるだろう。

その最も有望なワクチンを使って、対象者と規模を拡大した臨床試験を開始することになる。それが早ければ2020年秋に開始される可能性があると、ニューヨーク大学ランゴーン・ヘルスのワクチンセンター所長であるマーク・マリガンは言う。マリガンは、ランゴーン・ヘルスのティッシュ病院で実施されている臨床試験を指揮している。「通常なら数年かかるところを数カ月で取り組んでいます」と、マリガンは語る。

ティッシュ病院からクルマで数時間の距離にあるペンシルヴェニア大学でも、研究者たちが同地域にあるバイオテクノロジー企業のイノヴィオ・ファーマスーティカル(INOVIO Pharmaceuticals)が開発した別の遺伝子ワクチンの安全性を試験している。

「INO-4800」と呼ばれるこのワクチンは、RNAの代わりに合成DNAを利用する。しかし、原理は同じで、このDNAに組み込まれているのは新型コロナウイルスのスパイクたんぱく質の一部だ。イノヴィオは、ペンシルヴェニア大学とミズーリ州カンザスシティーにある薬学研究センター(The Center for Pharmaceutical Research)の2カ所で、合計40人の健康なヴォランティアにINO-4800を2回投与する臨床試験を実施している。

DNAを細胞内に送り込むほうがやや困難であることから、医師はワクチン注射後に微弱な電気インパルスによる刺激を与える必要がある。このわずかな電気ショックで細胞膜に細孔が開き、DNAが内部に侵入できるようになる。

この第I相試験の最初のヴォランティアは、4月6日にワクチン接種に続いて電気インパルスを受けた。ほかの39人の参加者も少なくとも1回目の投与を受けているが、臨床試験の参加者全員が抗体の産生急増が起こると見込まれている時点に到達するにはもう数週間かかると、ペンシルヴェニア大学の感染症医師で臨床試験の研究責任者のパブロ・テバスは説明する。

しかし、イノヴィオ臨床試験を実施する研究者は、すでに第II相試験の計画を2020年夏後半の実施に向けて開始している。主に医師、看護師、警察官、および新型コロナウイルス感染症に暴露する可能性が高いその他のエッセンシャル・ワーカー(必要不可欠な労働者)が参加する予定だ。

「これまでの慣例では、第I相試験を実施中に第II相試験を計画することはありませんでした」と、テバスは言う。「しかし、時間をかけて順番に治験を進めていくというこれまで一般的だった考え方は、すべてこのパンデミックで隅に押しやられています。抗体をつくることはもちろん大事ですが、本当に必要なのはつくられた抗体が感染を予防するかどうか知ることなのです」

上記のようなワクチン候補に加えて、現在中国で2種類のワクチンのヒト臨床試験が実施されている。北京のバイオ医薬品会社のシノヴァク・バイオテック(Sinovac Biotech、科興控股生物技術)が開発したものと、北京天壇生物製品が開発したもので、どちらも化学的に不活化した新型コロナウイルスを利用する不活化ワクチンだ。世界保健機関(WHO)がまとめたリストによると、近いうちに治験を開始する可能性があるワクチン候補がさらに71種類ある。

世界保健機関は、「チャレンジトライアル」でより迅速な前進を目指す
ワクチン開発を加速する別の方法は、ワクチンの有効性を証明するために臨床試験参加者が自然に存在する病原体に暴露するまで待つステップを省略することだ。代わりに、健康な参加者にワクチンを接種し、管理された環境で故意に病原体に暴露させる「チャレンジトライアル」を実施する。

一部の参加者はプラセボを接種するので、倫理規定では通常は、それほど深刻ではないか、または効果的な治療法がすでに存在する疾患に対して、チャレンジトライアルを利用することが原則になっている。

新型コロナウイルス感染症は、まだ未解明の部分も多く、大量の死者数と予測不可能な症状をもたらす。このため、この一般原則に疑問を投げかける生命倫理学者もいる。新型コロナウイルス感染症のチャレンジトライアルの検討を提案しているのだ。

しかし、これまでこのようなチャレンジトライアルは承認されたことがない。「このパンデミックは多くの点で前例のないものだと感じています」と、ノースウェスタン大学とシカゴのアン・アンド・ロバート・H・ルーリー小児病院に務める医療倫理学者のシーマ・シャーは言う。シャーは『サイエンス』誌に発表した新しい論文で、新型コロナウイルス感染症と戦うためのチャレンジトライアルの利用方法に関する倫理的枠組みを提示している。

シャーはまた、前進するために必要な条件を詳述した同様の報告書を5月7日に発表した、WHOのワーキンググループのメンバーでもある。このWHOの報告書で示された8つの前提条件には、危険に見合うだけの科学的利益があることを確認し、臨床試験参加者のリスクをできるだけ最小限に抑えることが含まれる。

したがって、募集する参加者は健康な若者や、医療従事者のようにすでに感染の可能性が高い人に制限される。このWHOの報告書はチャレンジトライアルを実施すべきかどうかについての立場は示していないが、チャレンジトライアルの選択肢を検討している研究者やワクチン開発者にガイダンスを提供する。

シャー個人は、チャレンジトライアルを実施する価値があると確信している。「チャレンジトライアル実施の潜在的価値は、ほかのあらゆる状況に比べても突出しています」とシャーは言う。チャレンジトライアルは単一のワクチン候補の有効性を評価するだけでなく、科学者の新型コロナウイルス感染症の経過への理解を高め、ほかのワクチン候補の評価と開発加速を助ける免疫細胞マーカーを開発するために役立つと、シャーは考えている。

また、チャレンジトライアルを利用すれば、広範囲に及ぶ有望なワクチン候補をすばやく絞り込むことができ、最も有望なワクチン候補だけに対して第III相試験を完全に遂行すればよくなるかもしれない。「そのため、これまで長く尊重されていた境界線を越えることになったとしても、チャレンジトライアルの基礎を築くために投資を始める十分な理由があると、わたしたちは考えています」と、シャーは言う。

チャレンジトライアルは、実際にはまだ計画されていない。だが、草の根の研究者団体「1 Day Sooner」が主催するヴォランティアのオンライン募集では、14,000人以上が機会があればチャレンジトライアルに参加したいという意思を表示している。

この取り組みの目的は、チャレンジトライアル参加者を募集することではなく、チャレンジトライアルのアイデアが一般市民に支持されていることを立法者や規制当局に示すことにある。参加者に意図的に感染させることを含む計画を採用した臨床試験は、すべて安全性および有効性を確認する試験に対して通常課される既存の制約に完全に従う必要があり、FDAによる管理が維持される。

米国ではチャレンジトライアルのような治験を許可するかどうかの決定は、最終的にはFDAに委ねられる。FDAの広報担当者は『WIRED』US版に宛てたメールで、チャレンジトライアルはFDA新型コロナウイルス感染症ワクチンの開発を加速するために検討している方法のひとつであり、FDAはチャレンジトライアルの実施に関心をもつあらゆる団体と協力して、科学・物流・倫理面での考えられうる課題を検討すると伝えている。

そのうえで、「ヒトを対象とした特定のチャレンジトライアルの申請に対する正式な判断は、その時点で入手可能なあらゆる情報に照らしてFDAが行うことになるでしょう」と語っている。

MEGAN MOLTENI