Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第70回−2

1879年1月25日 土曜日 
昨日一日中準備をしていた音楽会が素晴らしくうまくいった。
ご招待してあった滝村氏と岩田通徳氏がみえて、五、六カ所から別々に届けられた楽器をうちの客間に用意された。
やがて銅鑼が鳴って他の六人の音楽家がみえた。
皆さん立派な和服姿で礼儀正しく、紳士的だった。
獅子のような顔に白髪の髭をはやした岩田氏。
琴を弾く教授のような感じの紳士。
大きな声に派手な身振りの滑稽な小柄の東儀氏。
前に私の注目を引いた素晴らしいテノールの持主で一等伶人である芝葛鎮氏。
皆さんが上(うえ)と呼んでいる名人の、丈の高い立派な顔の方などがみえていた。
この他に名前を存じ上げない方が二、三人みえた。
それから河村氏という笙の演奏者で、いつもしかめっ面をしているおかしな方もおいでになった。
お招きしてあった松平定敬氏も来られ、アディと鞠投げなどして陽気に振る舞っておられた。
以前には封建時代の大仰な態度が彼の特徴だったけれど、今ではそういうものは影もなかった。
すっかりアメリカ化されておられる。
最初の一曲はユニゾンで演奏され、次に声楽を加えて演奏された。
そのあと「ご馳走」の番になり、皆さんを食堂にご案内して、我が家の質素な茶菓を差し上げた。
茶菓のあと演奏者たちと勝家の皆さん、松平氏、ディクソン氏は客間に戻って、お互いに親しくなるよう話し合われた。
男性方は、女性方に椅子を譲って床に坐り、煙管と煙草を女性に差し出した。
「次はクララさん、是非一曲弾いて下さい」
大勢の本職の音楽家たちの前で弾くのは胸がどきどきした。
けれど、弾いてみると、皆さんが手や足で拍子を取ってくれ、不思議なことにいつもより上手に弾けた。
ディクソン氏は音楽家たちに恐れをなしてか「死の行進」はいつもよりずっと下手であった。
私が歌を歌い終わると、皆さんが周りに集まって来て下さった。
「クララさんの歌い方は大層上品ですね」
次にディクソン氏と私が『古今の歌』の中からやさしい歌を合唱して、盛んな拍手を受けた。
男女の合唱は珍しかった。
でもディクソン氏はバスなので、私のソプラノに合わせるのは難しい。
私としてもテノールと合唱する方がうまく歌えるのだけれど、皆さん良い合唱だったと云って下さった。
その後「いかばかり」という彼らのお仲間である東儀氏の作曲の歌を歌ってみて欲しいと云われた。
それは降る雪を見ていると親しい友人と庭を散歩したくなる、といった内容である。
私だったら、ストーブのそばに近付きたくなるところだが、私はあまりに実際的なのだろう?
もっともその曲を和琴と笛と笙の演奏で歌うとなかなかよかった。
次に七人の男性の声も加わって賑やかに歌った。
その声は家中に鳴り響き、梅の木に囲まれた東屋におられる勝安房守にも聞こえたであろう。
芝氏は綺麗なテノールで、磨く値打ちがある。
彼はオルガンの横に立って歌の先導をしたり、一緒に笛を吹いたりした。
後で音楽について彼と色々楽しく話し合った。
和琴の本を見せて下さって、漢字の読み方を教えて下さった。
私にもすぐに覚えられそうだ。
皆さんは十二時過ぎまでおいでになった。