Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

オリジナルの歴史伝奇小説から出題中の「異文化交流クイズ」外伝シーズン第7回。
舞台は仙台藩内に入り、物語としてもターニングポイントとなってきます。もっとも冒頭は相変わらずのアイリーンの暴走から始まりますがw。結婚式に関する意外な豆知識が今週のクエスチョンとなっています。


《第5章》愛子
1.
真っ直ぐに伸びた長い夜の街道を、白い影が疾風のように駆け抜けている。夜目にも鮮やかに浮かび上がるその影は―――花嫁衣装を纏った少女の姿をしていた。
『結婚式に際し女性が白いウェディングドレスを身に纏うようになったのはさほど以前のことではない。偉大なる我らが女王陛下の結婚式当日。陛下自らが古き伝統をうち破られ、銀ではなく白のガウンを召されたことが今日の結婚式における衣装の趨勢を定めたのだ。ホニトン・レースのヴェールを召された陛下はダイヤモンドのネックレスとイヤリングをつけられ、その纏われたドレスは白いサテンで鮮やかな縁取りが施されていたという。
不思議なことに、大陸を挟み丁度我が国と裏返しの位置にある日本でも新婦が身に纏うのは純白の衣装だ。
花嫁はその顔に白粉を塗りつけ、白一色に統一された絹服を身に纏う。可愛らしい二人の少女に先導され花婿の家へと到着した彼女は頭から足先まで白い絹のヴェールで覆っており、その目線を常に自分の爪先に据え、終始伏目でいなければならぬその姿勢のため出席者からは勿論、花婿でさえ彼女の顔を見ることはできない。
驚くべき事に花婿は花嫁の顔を知らないと云う。つまりこの結婚は本人たちの意志ではなく、親同士の間で結ばれたというわけだ。確かに類例は我が国でも貴族間や豪商間ではしばし見受けられることではあるが、結婚式当日まで二人が一度も顔を合わしたことがないというのは流石に異例のことであろう。しかもこの国ではまだ写真は十分に普及していないため、花婿は式の終盤、花嫁がヴェールをとるその瞬間まで彼女の顔を知る術もなく、また礼法に反するため式の途中で彼女の顔を見ることすらできない。
それ故だ。今回立てた私の計画が成功する余地があったのは。』


「ア、アンタ……ま、まさか原稿のネタを作るためだけに……?」
切れ切れの息の中、吐き出された深緑色の少女の詰問。それに髪を漆黒に染め、顔全体に白粉を塗った少女は躊躇いなく直答する。
「ウン! それに勝算も十分あったからね!」
緑色の縞のある着物を、黄緑色の絹糸で綴った帯で止めた少女。彼女は併走しながらも器用に懐からピースメーカーを取りだし、無言で白いベールの少女に照準を定める。
「落ち着いて下さい、マスター!」
現れた三つ目の影が、破局を辛うじて回避させる。
「もう追っ手は完全に撒きました! それにアイリーンさん、マスターにちゃんと事情を説明して下さいよ! マスターは本気です。このまま撃たれたら洒落になりませんよ!」
ずっと駈け続けてきた双子はようやく足を止めた。
シンイチの肩から飛び降りたカペは姉妹の間を右往左往して、互いのご機嫌伺いをする。荒い息を整え続けるゼルファに対し、アイリーンは散歩の後くらいにしか感じていないようだ。出鱈目の口笛まで吹き始める。
「あの……マスター?」
ようやくゼルファの肩の震えが落ち着いてきたのを見計らい、シンイチは控えめに声を掛ける。
次の瞬間、ゼルファは左手に握りしめていたピースメーカーの銃口を上げた。銃口のまっすぐ先にあるのは花嫁衣装姿のアイリーンの頭部。
「じゃあ、その事情とやらを訊かせて貰いましょうか!
アンタが花嫁と入れ替わって結婚式に出席して、全てをぶち壊したその理由を!!」
地獄の釜で煮詰められた怨嗟の結晶のような声で、姉は妹への尋問を始めた。


相変わらず珍道中を繰り広げるゼルファたち一行は伊達の大木戸を超え、二週間前の七月二日、旧仙台藩領内に入っている。白石を抜けると、最初の調査目的地は目と鼻の先。
杜の都仙台は使節団を派遣した伊達政宗が本拠を構えた地だ。
一行はこの地に居を定め、正宗の使節団派遣と仙台藩内でのキリシタンの活動について綴った手帳が発見された元仙台藩評定所を皮切りに、フランシスコ会宣教師が教えを説いたとされる仙台市中や、その近郊を見て回る。
更に彼らは足を伸ばし、使節団が出航した牡鹿半島の月ノ浦を訪れた。この地において太平洋を横断する五百トンクラスのガレオン船を建造したのは、幕府御船手頭向井兵庫の嫡子、将監忠勝が派遣した幕府お抱えの船大工だ。船の全長は三五メートル、幅は十.八メートル、メインマストは三一.五メートルと当時の和船と較べて決して大きいわけではないが、スペイン船の構造を取り入れた船であったらしい。
この地が船の建造とともに出航の地とされたのは、北大西洋航路の出港地として最適だったからだ。牡鹿半島の沖で進路を東に変え、黒潮海流と偏西風を利用すればアメリカ大陸へ達する最良の航路となりうるのだ。
調査を終えたゼルファたちが宿を立とうとしたその日のこと。
たいそう親切な宿の主人は、彼の姪の結婚式にゼルファとアイリーンを招待してくれた上に、着物まで貸してくれたのだ。
式はゼルファが読んだ作法の本とはかなり異なっていたようだが、これは花嫁と花婿が武士階級ではなく、裕福な商家の子女だったためらしい。もっともシンイチがその式に招かれなかったため、式の詳細については理解できなかったところが多かったようだ。
そのことについて彼女は「五感の一つがもぎとられたようだった」と個人的な手記に書き残しているが……その後に起こった大騒動については無論、一言も触れていない。


「だって彼女、まだ結婚なんてしたくないんだって。もっと勉強したくて東京か横浜に行かせてくれってお父さんに頼んだら勝手に結婚を決められちゃったって言うから!
まだ十七歳、私たちと同い年よ! それなのに、したくもない結婚を無理矢理なんて可哀想じゃない! ね? 姉上もそう思うでしょ?」
路傍に捨てられ、冷たい雨に打たれ、びしょ濡れになった子猫のような目で、アイリーンは姉を上目遣いに見やる。
月光に照らし出された街道のど真ん中。
日本の花嫁衣装を着た緑色の瞳の少女の懇願する姿は、目眩がするほど異様な光景だ。
妹の目を見ないようにしながら、ゼルファはつっけんどんに言い捨てる。
「問題はそんな所じゃない! いつも言っているでしょ? 余所者の私たちが一時の感情で、その地の事柄に介入して事態をねじ曲げる権利なんてどこにもないんだって!」
自分にはそれを言う資格のないことを十分に知りながらも、ゼルファは妹をたしなめる。
「だいたい彼女はどうしたの? こんなことをして、実家に帰れると思っているの? 彼女のこれからの人生、アンタに責任が取れるって言うの!?」
姉の質問を予期していたかのように、アイリーンは満面の笑みを浮かべた。勝利宣言をするかのように、高らかに告げる。
「それなら大丈夫! 信頼出来る案内人をつけた上で横浜までの旅費も渡しておいたから。それにヘボン博士への紹介状も書いておいたしね! 博士ならあの子の横浜での居場所くらい見付けてくれるわよ。彼女、頭も良さそうだったし」
妹の的確この上ない言葉に、ゼルファは怒りの矛先を変える。
「Sin! アンタの入れ知恵でしょう!? この子がここまで用意周到のわけがない!」ゼルファの突き刺さるような追求もシンイチをたじろがせるには至らない。
「ボクはアイリーンさんの下問に忠実に答えたまでです。勿論この国の常識からすれば彼女の取った手段は理解の範疇外のものかもしれませんが、そのような古き因習に囚われていてはこの国が欧米列強諸国に追いつくのには永い時間が掛かるでしょう。それでは……間に合いません」
普段と変わらぬ飄々とした口調。だが、シンイチの表情に微妙な翳りがよぎるのを、ゼルファは見逃さない。
「それに悲しいかな、ボクは明日をも知れぬ雇われの身。金主の命令に逆らう術のあろう筈もなく、やむをえず」
少年の締めくくりの言葉は明らかにゼルファをおちょくったものだ。
だが、これまでの旅を通して彼女は彼女なりに学習している。今回の一件で二人にこれ以上の追求を行っても無益だと悟ると、幾ばくかは話を建設的な方向へ向ける。
「で、これから私たちはどうしたら? 当然だけど、もうあの宿には戻れないわよ、荷物も全部置いてあるっていうのに!」
シンイチの備えは万全だった。くるりとゼルファの方に身体を向けると、背負った巨大な風呂敷包みを見せつけるようにする。
「御心配なく。必要な荷物は御覧の通り。ただ流石に、組立式ベッドは諦めて頂くことになりましたけど。勿論、旅館には宿賃と、幾ばくかの迷惑料も置いてきましたし。
そうそう、あと今お二人が着ていらしている服は、次に陸運会社の支店がある宿場町で宿のご主人に送り返す、ということで宜しいですね?」
シンイチのあまりの手際よさにゼルファは呆気なく抵抗を放棄した。
「そこまで考えているなら、次の目的地も決めてるんでしょ?」
「そうですね、この街道を西南に進路を取れば、奥州三名湯の一つでもある伊達家の湯治場だった秋保温泉に行き着きます。ひとまずここに落ち着いてから、改めてこれからの旅程を決めるというのは如何でしょうか?」
その“予測通りの言葉”にゼルファは敢えて探りを入れず、気安い口調で告げた。
「そう、それなら丁度通り道ね。折角ここまで来たんだからもう一箇所だけ寄ってみたいところがあるんだけど」


2.
翌日、私たちは仙台市内を流れる広瀬川上流へと向かい、程なく仙台郊外の山合いの小さな村、下愛子村に辿り着いた。
仙台から距離的にはさほど離れていないけれど、街道とは山々によって隔てられたその村は閑静なたたずまいを残している。
「これは鬼子母神像、かな?」
休憩のため軒先を借りた民家の床の間に飾ってある掛軸をみてシンイチが首を捻る。掛絵の中では日輪を背景に、神々しい雰囲気を醸し出す妙齢の女性が幼子を抱きかかえている。この農家の主婦の話によると、確かにこの村では代々「鬼子母神」という子宝と子供の病気回復の神様を祭っているという。
しかし、私にはこの掛軸に描かれた母子像の「正体」について容易に想像がついた。
「無原罪の聖母と聖母子像のモチーフ。その混融か」
私の推測はまず間違いないように思われた。恐らく元々はモチーフに沿った絵がそれぞれあったのだろうけれど、描き直しが重ねられるうちに絵もモチーフも融合してしまったのだろう。
謝礼を述べて(最後まで彼女は頑なに礼金を受け取ろうとはしなかった)その家を辞した私たちは村の外れへと向かう。
先程から好奇心とは全く別物の、妙な視線がちらちらと投げ掛けられてくるのに私は気付いている。最初はカションの一味かとも思ったが、それほど明確な殺気があるわけじゃない。
村の墓地に並ぶ墓石には十字、釣針に○などの印が刻み込まれていた。
確かにサトー氏の報告書にある記述通りだった。現在においてはどうやらその意味も本質も失われてしまっているようだが、この村には明らかにかつてキリスト教が流布した形跡がある。
もっとも、今回の調査の焦点はキリスト教がこの地にかつて根付いていたことではない。この村に隠棲の地を求めたある女性の生涯なのだ。
「ここがさっきの小母さんが言っていた……栗生屋敷?」
村の西外れの、今はもう朽ち果ててしまった屋敷跡に辿り着くと、つまらなそうにアイリーンが云う。
報告書で廃墟となっていると知ってはいたものの、淡い望みを抱いていてやってきたのだけれど、新たな手懸かりが全く期待できそうにないことが分かり私は失望せざるを得なかった。収穫と云えば、この館がこの国の建築物としては珍しく西向きに建てられていることを発見したくらいだ。
気が付くと、私たち背後には例の黒いアルカパフロックコートに白いスボンという制服を着た三人の巡査が現れていた。例の妙な視線はこの男たちだったわけか。
「ひょっとして、昨日の一件かな?」
「この国の人間が自分の、ましてや身内全体の恥になるようなことをわざわざ広言するとは考えられないですけどね」
アイリーンとシンイチののんびりした会話が聞こえてくるが、男たちが腰に差した警棒を撫で上げるように触っているのに気付き、私は身構えざるを得なかった。
時折黒く細長い瞳を私とアイリーンに向ける警官たちと暫く話をしていたシンイチは少し思案顔をしてから「通訳」する。
「申し訳ありませんが、この巡査さんたちはお二人の旅券を見せて頂きたいと仰っていますが、お願い出来ますか?」
シンイチは柔らかい表現をするけれど、警官の態度から実際には更に強硬な言葉を吐き出していることは明らかだ。
この国では外国人が国内旅行する場合には旅券が必携とされていて、これを所持していない場合は、領事館に送り戻されることになっている。通常の旅券には、その外国人の旅行する道筋を明記することになっているのだけれど、パークス公使は「歴史、建築、植物の調査、あるいは科学的研究調査」という名目で、事実上無制限ともいうべき旅券を手に入れてくれた。
この旅券は道筋を明記せず、東京以北の全日本と北海道の旅行を許可するものであり、これを所持している限り、日本政府ですら私たちを制止できないことになっている。
ちなみにこの旅券は勿論日本語で書かれてあるのだけれど、シンイチの助言で旅券の氏名記入欄のところをヘボン博士に習って和風の名前にしてある。シンイチが万年筆で書き足したそこには、次のように書かれていた。
《逝漏腐蛙 薔愛鳥》
《愛鈴 薔愛鳥》
……旅に出かける前夜、私は我ながら疑わしさしかない口調でシンイチを問い質したのだ。
「漢字って殆ど分からないんだけど、アイリーンの方の漢字は凄く綺麗で素敵な感じがするのに、なんか私の方はもの凄〜く怪しげな感じがするのは気のせい?」
「気のせいですよ」
シンイチは一言で斬って捨てたが、この怪しげな漢字が警官の私たちを見る目つきを更に険悪な方向に誘導しかねないかとひどく危惧した。
ようやく警官たちを追い払い(それでも遠巻きに私たちを観察しているようだが無視する)、私たちは再び村の中心に戻ることにする。最後の手懸かりはやはりここしか考えられなかった。
この下愛子村の中心に建つ「薬師堂」と呼ばれる建物。この建物を建立したのが先程訪ねた屋敷のかつての主だ。
その主の名を伊達五郎八という。そして彼女は伊達正宗の長女に当たる人物だった――。


私たちが堂に入るのを警官たちは止めたいようだったけれど、この辺は所詮官僚組織だ。「歴史研究調査」という名目の中央政府発行の旅券がある以上、彼らに私たちを止める権利もなければ、義務もない。
観音開きに明け放たれた扉をくぐると、そこには静寂という名の糸が張り巡らされた狭く高密度な空間が広がっていた。堂内に一歩踏み込むたびに時を遡っていく錯覚が襲われた。アイリーンだけでなく、シンイチも、そしてカペですら重苦しく沈黙してしまうけど、私自身はこういう感覚が嫌いじゃない。
薄暗い堂内の正面で私たちを迎えたのは二体の立像だ。
「ああ、これは薬師如来地蔵菩薩です。病気快癒の神様と死後の世界で子供を救う神様ですね」
問い質すと、ようやく我に返ってシンイチは答える。
「でもこの二体が仲良く並んでいるなんて少し珍しいですね。この地方独自の並び方なのかな?」
チラリと堂の外の様子を伺って、私は更に一歩踏み出す。
二体の像の影には、更にそれぞれ一体ずつ等身大の木像が隠れるように配列されている。
その像はともに胸に膨らみのある女性像だ。この国の仏像には本来ない筈の豊かな膨らみと写実的に刻み込まれたその表情がこの像の「正体」を雄弁に物語っているかに思われた。
私は懐から懐紙と口紅を採りだすと、像の唇に軽く塗る。懐紙で採られた拓本の下唇には、報告書の記述通り、十字架が刻み込まれていた。
「ん?」
私は双子のようにそっくりな像の微妙な違いにようやく気付く。
二体とも明らかに同じ若い女性をモデルに写実的に表現された彫刻には違いないけれど、一方の像の下腹部が微妙に膨らみを帯びている。
これではまるで……
「アイリーンさん!?」
悲鳴にも似たシンイチの叫びに振り返ると、アイリーンが魂の抜かれたたような表情で呆然と立ち尽くしている。
「ちょ、ちょっと、アイリーン!」
慌てて駆け寄り肩を揺さぶる私を無視し、アイリーンは夢遊病者のような足取りで下腹部に膨らみを帯びた像に近づき、そのまましだれかかる。
「……あねうえ……」
「どうしたの!? しっかりしなさい!」
「ただ……てる……さま……」
アイリーンはそう呟くなり意識を失い、崩れ落ちた……。


幸いアイリーンの意識はすぐに戻り、私たちは秋保温泉へと向かった。
流石のアイリーンも温泉で汗と埃を流すとすぐに布団に潜り込み、私も間もなく眠りの世界へと誘われた。
無限に押し寄せる波。木の葉のように翻弄される小振りな船。全てが石で築きあげられた冷たい町をただ独り彷徨い続ける……
いつもと変わらぬ夢の導入部。
だがこの夜、現れたのは毎夜訪れる悪夢ではなく……ひどく懐かしい想いに満たされた夢。
夢の中に最初に登場したのはアイリーンだ。髪を漆黒に染め、桜色の着物を纏っている。普段なら叱りつけている筈なのに、夢の中の私は何故か何も言わない。ただ無性に何かに対して苛立ってることだけは分かる。でも夢の中の私が満たされているその感情は……私のものであって私のものじゃないみたいだ。
アイリーンの傍らには丁髷に両刀を差した若い侍がいて、彼女と何やら楽しげに話している。侍は丁度私に背を向けた格好で立っているため、その顔は見えない。小柄だけれど、その背中がやけに広く、そして何故だか分からないけれど……ひどく暖かな感じがした。
侍と仲良く肩を並べて歩いていたアイリーンは突然小走りに前方に駈けていき、くるりと振り返る。
そして侍の顔をまじまじと見つめた後、
「……!」
満面の笑みを浮かべてアイリーンの口を突いて出た言葉。夢の中の私には、それがまるで異国の言葉のようで聞き取れない。だがそのアイリーンの言葉は、私の胸の最奥に沈めた埋火にポツリと火を灯した。
夢の中の私は胸をチクチク突き刺すようなその感情の正体を図りかねたままアイリーンの下に駈け寄ると、おどろおどろしい恨みの声をあげた……。
(第5章後半に続く)


さて章の途中ですが、閑話休題
今回の章の冒頭。アイリーンの記事に出てくる「偉大なる我らが女王陛下」と云うのは、云うまでもなく当時の英国女王たるヴィクトリア女王のことですが、実は現在に繋がる結婚式の「原点」がこの結婚式で定まっていたりします。
旧来王族の花嫁は銀色の衣裳を纏っていたのですが、上にある通り女王自ら「白のウエディングドレス」を選んだことによって、これ以降庶民の間でも「白のドレス」が一般的になっていきます。ドレスについたレースに関しても同様なのですが、この結婚式の為の華やかなレースを作るのに注ぎ込まれたのは「八ヶ月の期間と、二百人の職人」というのですから、流石は「太陽の沈まざる帝国」の絶頂期だったと云えるでしょう。
これ以外にも現代の結婚式にヴィクトリア女王が与えている影響は間接的ながらも絶大で、花嫁が歩いている時に流す「花嫁入場曲」。これは実はワーグナーのオペラ「ローエングリーン」の中の一節で、女王の孫娘ルイーズ王女の成婚の時に流されたのがきっかけで、今では「定番中の定番」ですね。ちなみに「結婚行進曲」はメンデルスゾーンの作曲ですが、これまた女王の娘の王女の結婚式で演奏されたのがきっかけで世間一般に認知された物だったりします。
ここで今週のクエスチョン。現在の結婚式には欠かせない『ある物』ですが、従来からこの慣習自体はあった物の、ヴィクトリア女王の結婚式でとりわけ豪華なその『ある物』が披露されることによって、結婚式の定番となることになりました。
さて、この結婚式に欠かせない『ある物』とは一体なんでしょう? 今回のヒントのキーワードは「夫婦揃っての」です。
回答は木曜日の22時まで、web拍手にてお待ちしています。ついでに物語の一言感想でも頂ければ幸いこの上ないですm(_)m。5章後半は木曜日の解答発表時にアップします。
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