Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

オリジナルの歴史伝奇小説から出題中の「異文化交流クイズ」外伝シーズン第10回。
今回の問題は、近年日本において従来考えられてきた地層とは別の所で金鉱脈が発見され、実際1981年に発見されたその鉱山では現在採掘が行われているのですが、この鉱脈発見現場には、我々が観光でお馴染みの“あるもの”がそばにある地域が多いのですが、その“あるもの”とは一体なんでしょう? という問題でした。


今週はあっさりと発表ということで、正解は「温泉」でした。正確に言うと「熱水性金鉱脈」と云いまして、要するに、温泉の出るような火山地帯には金鉱脈が出る可能性がある、というお話。メカニズムの詳細については省略しますがw、この熱水性金鉱脈が東北地方には多い、というのが今回の元ネタだったりします。
これだけだとなんだか眉唾な話に聞こえますが、実際この視点で現在も日本各地で金鉱脈が発見されていますし、実際今回例として出した1981年に発見された鉱山、鹿児島県の菱刈金山はコスト高の日本でさえ現在なお採掘中であるほどの高金含有率を誇っています。
ただ地上よりも更に含有率が高いものが発見されている海底熱水鉱床は、現在の所、採算ベースに乗っていないようで、これは今後の技術発展に期待ですね。今後はメタンハイブレードなどの開発も必須ですし。
今週の正解者はゼノゼノさん、Ironさん、totuさんでした。なお今回の外伝シリーズは、あと2回続きますので、今シリーズの結果発表は二週後、ということで失礼します。。
それでは、引き続き《第7章》後半を、ご覧下さいませm(_)m。“あの男”の正体は登場当初から丸わかりの、ベタベタなものですけどw。


3.
それだけ言い捨てると、私は抜き打ちの三連弾を撃ち込む。
神秘的な地底湖の静寂を破る無粋な爆音が響き渡り、天井に張り付いていたウサギコウモリが一斉に飛び立つ。
侍はカションを突き飛ばすや、刀を右肩に担ぐようにして私目がけ突進してくる。
それを止めるべく更に三連弾を放つけれど、それも容易にかわされる。その銃撃で一瞬稼いだ合間に、床から上に伸びる石筍の陰に入り込んで、弾丸を装填する。
この侍の強さは身に染みて分かっている。まともに戦って勝てる相手じゃない。
唯一有利な点は、至るところで石筍や鍾乳石が伸びているため、侍が満足に剣を振るえぬことくらいだろう。
「マスター!」
シンイチの警告に私は反射的に身体を転がす。
私が一瞬前にいたところを、白刃が通過していく。更に一閃。私はごつごつした鍾乳洞の床を這うようにしてそれをかわす。
なんとか間合いを取り、再び石筍の陰に回り込む。
たった二つのランプで照らし出されたこの広大な地下空間は圧倒的に闇の部分の方が多い。石筍の陰から身を乗り出した私は、じりじりと詰め寄る侍にではなく、天井に向け全弾を発射する。
つらら状になって垂れ下がっていた鍾乳石の雨が降り注ぐ。
何の躊躇いもなく侍は降りしきる鍾乳石を、大きな物は鞘で叩き落とし、小さな物は無視し、一気に距離を縮めてくる。
……私には侍の視線を一瞬、上に向けられれば十分だった。
彼が私を間合いに捉える寸前、携帯用火縄を足元に放り捨てる。そこにあるのは弾丸から抜き取った火薬だ。
「……やったか?」
激しい黒煙に向け、更に銃を連射するけれど、奇妙に手応えがない。
「右っ! マスター!」
とっさに銃口を右手側に向けるけれど、一瞬遅かった。
「し、しまっ……」
斬り上げた刀に銃が弾き飛ばされ、ポチャンと間抜けな音をたてて、地底湖に沈んでいく。


「……何処で拾ってきたの、こんな殺人機械?」
私は銃を弾き飛ばされたその姿勢のまま、忌々しげにカションに問い質す。
「この国の革命戦争の最期の舞台函館さ。私は教会を持っていた関係で、あの地の者と馴染みが深くてな。あの時の叛乱軍の首謀者たちは助命されたが彼らの中でただ一人、決して助命されえぬ男がいた。かつてあまりにも多くの人を斬りすぎたためにな。それがこの男だ。
無謀な突撃の末、全ての部下を失い、自身も大砲の破片を浴びて、重傷を負ったこの男を顔見知りの医者が助け、私の元に連れてきたのだ。所詮この国に居場所のない野良犬と思い本国にも連れ帰ってみたが、なかなかどうして、如何なる状況でも役に立つので重宝しておるのさ」
侍の絶対的能力を確信しているのだろう。カションは私の呼び水に乗ってくる。
愚かだな、と私は思う。私がカションの立場なら戦闘開始と同時にランプの光を消している。
真の闇の中ではピストルの弾丸など万に一つも当たる筈がない。逆に死人のようなこの侍ならば、真の闇の中でもとっくの昔に私を無造作に斬り捨てているだろう。
「最期の懺悔は? それとも父親への遺言はあるかね? あるなら私が伝えてやろう」
せせら笑いを浮かべるカションに、私は逆襲の狼煙となる言葉を向けた。
「後悔だらけの私の人生だけど妖僧とまで呼ばれた神父にする懺悔はないわ! それに私には父親なんていない!」
奇術師のような素早さで右手袖の仕込みナイフを放つ。
ほんの僅かな時間差で、更に一撃。そしてその隙をついて懐から取り出したもう一丁のビースメーカーの連射。それは二五〇年前以上昔、三日月という名の少女が必殺としたという技の改良版だ。
都合八連の連続攻撃。かわせるわけが……
だけど、気が付いた時にはお互いの息が聞こえる程の至近距離に侍に入り込まれていた。
一瞬にしてこの技の致命的欠陥を看破されていた。これだけ間合いに踏み込まれてしまえば連撃の意味などないに等しい。
半ば覚悟を決めて私はサムライの瞳を見据える。
相変わらず何の色も看て取れぬアーモンドのような鋭く細い瞳。
それは絶望を通り越し……虚無に取り憑かれた瞳。


……ああ、なんだ。そんなことだったのか


命がけの戦闘の最中であるにもかかわらず、奇妙な納得をしている自分に気が付く。
私が“あのとき”見たのは、こんな眼じゃない。こんな絶望と虚無に彩られた光じゃない。
あれは絶望も希望も虚無も未来も全てを包み込んだ、極限の優しさの光。
でも“あのとき”の私は最後の最後までそれに気が付かなかった。
その“あのとき”が何時のことだったのか、皆目見当がつかない。
本当にあったことなのか、夢の中の出来事だったのかも分からない。
ただ、気の遠くなるほど長い間抱え続けた疑問が氷解し、その不確かな記憶が忘却の彼方に落ち込んでいくのだけは分かった……。


「マスター!」
飛び込んできた黒い影の叫びと、舞い散る血飛沫で私は正気を取り戻す。思い切りバックステップを踏みながら、連射して牽制する。
「Sin! どうして!?」
私を庇ったシンイチは左肩の上部を斬られ、大量出血しているが、気丈に笑って答える。「二重に給金を頂いている以上、こんなときくらいは働かないといけませんからね」
「?」
「そろそろカラクリを明かしてもアイリーンさんも怒らないでしょう。ボクは三年も前に貴女がたの通訳兼護衛を務め、あの村に導くことを依頼されているんです。依頼主の名はクリストファー・バード。そう、貴女がたの父上にね。……来ますっ!」
その叫びに私は再び床を転がり銃口を定めようとするけれど、火花が弾け飛び、激しい金属音が地底湖のホールに響きわたった。
日本刀の刃と銃のシリンダーはがっしりと噛み、せめぎ合い、不快なハーモニーを奏でる。この姿勢での力比べは分が悪いけれど、もはや手持ちの武器は尽きている。
だが……私の脳裏の片隅でそれを否定する声が上がる。
そう、武器となりうるもの、本来“存在しうべからざるもの”ならまだ懐の中に……ある!


銃の向きを侍が更に力をかけられる方へと微妙にずらす。後はタイミングを図るだけだ。
三、二、一! 
ピースメーカーは日本刀に巻き取られ、漆黒の天井に吸い込まれていく。侍が万歳するような格好となったその瞬間、私は懐の如月を抜いた。
それはまるでナイフで薄紙を切り裂いたような感触。私の目の前では、容易には信じられぬ光景が繰り広げられつつあった。
侍が背にしていた石柱。数億年の歳月を経て三〇インチ以上に成長した鍾乳石に斜め一直線の亀裂が走る。両断された鍾乳石は、高みの見物を決め込んでいたカションの方へと倒れていく。
「わぁっ、うわっ、うわぁっ」
意味不明の言葉を上げ、カションは必死に手を突き出す。無論、数トンにも及ぶであろう鍾乳石を受け止められるわけがない。
巨大な水柱が立ち、カションは地底湖の底へと消えた……。
振り返った私の目に、幽鬼のように立ち上がったシンイチの姿が飛び込んでくる。額からも血を流し、顔全体を朱に染めてはいるけれど、足取りは意外と確かだ。
「Sin! そのまま寝てなさい!」
如月の鞘を刀代わりに、シンイチは侍と相対する。
「ボクがあの人に初めて出会ったのは十年以上前の事です。元々ボクではなく、母の知り合いだったのですが、あの人は恐らく最初から知って接触してきたのでしょう、母が五郎八姫の血統に連なる者だということを。それと同時に“父”とも接触して、何やら動き回っていたようですが、残念ながら当時のボクにはその内容は理解できませんでした」
シンイチの声はいつものように飄々としている。私はそんなシンイチの言葉を、何処か別の国の言葉を聞くような心地で聴くしかない。
「三年前に再び現れたあの人はボクに契約を結ぶことを求めました。あの人の依頼は三つ。
一つは貴女がたの来日時には通訳を務めること。
もう一つは指定されたあの日蝕の日、僕の母が出奔してきたあの村に貴女がたを送り届けること。
最後の一つは事件が終局を迎えた時、貴女がたに彼の託した伝言を伝えること。
『血と記憶と如月の導くままに。如月の監視者たる“ミカヅキ”の名はミレイユ・バードより、ゼルファ・バードに受け継がれし』
これがあの人の伝言です」
ミレイユ・ミカヅキ・バード。それはフランス系オランダ人だった私たちの亡きお母様の名前……。
無造作な足取りで近づいてくるシンイチに、侍の斬撃が襲いかかる。それをいとも容易くかわすと、シンイチは黄金の鞘を一閃する。
あの鬼神の如き強さを誇った侍が、スローモーションのように崩れ落ちていく。あまりにも呆気ない幕切れだった。
呆然と立ち尽くしたままの私の耳を、シンイチの死人に囁きかけるような声が打つ。
「人はその最もふさわしい時期に見事に死んでこそ後世に名を残します」
それはいつもの飄々としたシンイチの口調じゃない。ひどく生真面目で、面白みがなく、融通の利かぬ響きを帯びた言葉。
「そしてこの国のこれから迎える輝かしい歴史。そこには過去の亡霊が存在する余地はどこにもないんですよ、新撰組副長土方歳三殿」
……言い終えるなり、シンイチはその場に崩れ落ちた。
(第8章「平取」に続く)