Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

クララの明治日記 超訳版第11回−1

1876年3月10日 金曜日
この一週間ずっと書く暇がなかった。幾晩も忙しく忙しくて書くことができなかったのだ。生徒たちは毎日やって来る。授業をしているときは大変面白いと思うのだけれど「キャット」「キャット!」「ドック」「ドック!」そんな単調なことばかり教えていると、時々くたくたに疲れてしまう。
しかし、それでも生徒たちはとても進歩が早い。そして若い女の人たちは何よりもよく笑う。ミス・マギーの規律正しい授業は静かでキチンとしていて、針の落ちるのも聞こえるくらい静まりかえっているけれど、うちの生徒たちがそれを見たらなんと云うだろうか。
「おやお様、突然笑い出すなんて、どうかなされたのですか!?」
「いえ、裁縫用に持ってきた針が転がってしまいましたの。それが可笑しくて可笑しくて」
「それを仰るなら、針じゃなくてお箸です!」
うちの近くの神社で大きなお祭りがあったので、夕方から見に行くことにした。
母はレインコートに身を包み、私はケープのついた外套に、ウィリイのあざらしの毛皮の帽子を被って肩掛けを掛ける。うん、何処から見ても、立派な男の子の格好。日本人は外国人を見ると男よりも女をじろじろ見るから、この方が都合がいい。使用人のセイキチと富田夫人も一緒に行った。
月と星と明かりの中を、楽しく歩いて神社の境内に着くと、まずお参りの前に手を洗うところへ出た。それはどの門でも両側にある。
次に面白かったのは、辻占を売る屋台だった。長い箱が幾つかあり、小さな細長い木片が入っていて、箪笥の引き出しのようにするりと出てくるのだ。木片はとても小さいので、出すのに激しく揺すらなくてはならない。出てくるものには文字が書いてあって、いつ何が自分の身に降りかかるか教えてくれるのである。例えば私が引いたのは、以下のようなものだった。
『七年後の四月十七日、貴方は最も大切な人間を失うことになるから用心せよ!』
「…………」
もし出てきたものが気に入らなければ、気に入ったのが出て来るまで箱を振ることが出来るのだそうだ。つまり気に入った予言が出るまでひたすら繰り返せばいいわけで、このように迷信が維持されているのだ。
……だから、当然のように、私は箱から新たな木片を取り出すことにした。


神社には大勢の人が集まっていた。最初の売店には、神社に急いで届ける手紙を書く台があった。次に見たのは室内に坐っている神主たちで、テーブルの周りでお茶を飲みながら陽気に巫山戯ていた。私が近くへ行ったら、まるで私が肉か魚か分からないといった風にからかい気味に私を見た。
ここで主要な見物に注意を向けてみよう。
神にお参りするとき鳴らす鈴が上に吊してある柵の中に、一人の男の人がいた。この人は紙に包んだパンの欠片を沢山持っていて、いくらかのお金と引き替えに渡していた。
「人々はこのパンの欠片に病人を直す力があると信じて家に持ち帰るのです。だからこのパンは神聖な物と見なされ、次の祭りには古いパンを持ってきて、新しいのと取り替えるのですよ」
富田夫人の言葉に無言で頷いて、私は長い間そこにいて、惑わされた哀れな人々が、自分でもよく分からないものを拝んでいるのを見ていた。
「ありがたやありがたや」
一人の参拝者が私のすぐそばに立って、お辞儀をし、何度も手を打って、声を出してお祈りをしていた。この老婆が何を云っているのか私には検討もつかない。
だけれど、自分でもきっと分からないものに熱心に祈っている、その哀れな異教徒の着物が私の服に触れた。私は心の中で、真の神様へと祈った。
「こんな深い暗闇の中にいるこの人々になんとか光をもたらし給え」と。
帰宅しても、あの人たちが生命のないものに頭を下げている光景が私の脳裏を去らなかった。
鈴の音、手を打つ音、叫びと祈り。こういったものが私の耳の中で鳴りやまなかった。
ああ、なんと悲しいことだろう。神の掟と自然の定めを破って生命――それも動物ほどの生命のないものを拝むなんて! 木や石や金や青銅の塊を拝むくらいなら、ナイル川の鰐を拝んだ方がずっと、ずっとましだ! あの人たちがイエス様の前に跪いて、万物の主、神に懺悔する日を期待する。
その夜、この国へ来てから、多分去年の九月の台風以来、はじめてのひどい風が吹いた。