Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第21回−4

1876年10月12日 木曜日
今日はお逸がやってきて一晩泊まっていくことになった。勝提督から外泊の許可が頂けたのだ。
午後になって、みんなで銀座と芝へ出かけることになった。一緒に乗った人力車の中、向こうから薄黄色い肌の馬がやってきた。すると突然、隣のお逸が思い出し笑いをはじめたのできいてみると、お逸はお父様の黄色い馬に乗った時の愉快な話をしてくれた。
「わたしね、馬が好きで好きで仕方ないのよ」
衝撃の告白。私の親友は人間より馬の方が好きってこと!? 
「乗ることよ、馬に乗ること!」
……どうしても日本語と英語では互いの意思の疎通に齟齬が出るらしい。
いくらお逸が希望しても、将軍顧問にして海軍卿である勝安房守のお嬢さんが簡単に馬に乗せて貰えるわけがない。だけど我慢できなくて、お逸は人目のないある日。鞍もつけていない、お父様の馬に跨ったのだそうだ。
そうして庭のイチジクや、棗の木のあたりを歩いていると、馬が急に疾走を始めて門を走り抜け、通りに出てしまった!
「私、流石に怖くて怖くて、馬の首にしがみいちゃったんだけど」
そんなことをすれば馬は余計に早く走りだし――しがみつけばつくほど、老馬は早く走る! なんという悪循環!
「だけど、そうだったら馬をどうやって止めたの?」
お逸によると、見たこともない奇妙な服を来た人が突然馬の前に現れ、それに吃驚して馬が棒立ちになった瞬間、上手く飛び降りたのだそうだ。
「よく怪我がなかったわね」
「ま、なんとかねー」
見ていた人々は皆笑っていたそうだけれど、その「お転婆娘」が、後から慌てて追ってきた屋敷の人たちによって将軍の顧問であり海軍卿である勝安房守のお嬢さんと分かって吃驚したという。
「それでもね、私、馬が好きなの。できたらまた乗ってみたな」
お逸は目を輝かせて云うけれど、老いた黄色い馬に年若い女の子が必死にしがみついている様子は、さぞ滑稽だったことだろう。
日本人は、女が馬に乗ったり馬車を駆ったりすると、ひどく恥ずかしいことだと考えるそうだし。「強そうに見えるのですよ」とは冨田夫人の弁だ。
お逸は十二時前には寝ない習慣なので、わたしたちは十時まで起きていた。
結い上げたばかりの髪が、外国の枕のためにくしゃくしゃになったら気の毒だと思い、誰かに日本の枕を買いにやらせようと云ったが、お逸は強く反対した。
「髪を壊さないように俯せになって眠るから、大丈夫大丈夫」
おかしな子! 俯せになって、どうやって息をするつもりなの! 
結局、寝る時になって、セイキチが「イチバン」枕を出してきたので、我が友はそれで寝た。
私たち二人は夕方、チェッカーとかオーサーズなどをして遊んだ。それから寝床に入ったが、お逸が私のベッドを使い、私は簡易寝台でその脇に寝た。
お逸は私をベッドに寝かせようとして、ここでもまた私たちは争った。