Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第28回−8

1877年3月14日 水曜日
案の定、父は昨日の食べ過ぎが原因で具合が悪く、ウィリイが代理で学校で教えなくてはならなかった。
「もし明日も欠席されるようでしたら、森島君に代理をして頂きますから」
講習所の理事である矢野二郎氏が来て、そんな侮辱的な伝言をおいて行った。
私の血は煮えたぎったけれど、無力の私が怒っても何の役にも立たない。
昼近く。
いつものように授業を終え、階段を下りていったお逸と私の話題は、何故か青色とピンクについてになっていた。
お逸は青色が嫌いなのだという。その理由というのは。
「青って嫌いだわ、だってお婆さんの色だもの」
「日本のお婆さんって幾つなの?」
私が首を傾げながら問い返す。日本のお婆さんが青色の服を着ているのを見た記憶があまりないからだ。
「そうね。うーん、富田さんの奥さんの年くらいかな?」
「じゃあ、富田さんはお婆さんなの?」
「そうよ」
お逸が大きな声でそう答えた次の瞬間。
ほぼ同時に私たちは玄関の椅子の上に、見慣れた青い肩掛けと頭巾が置かれているのを発見していた。
「……ねえ、クララ。アレって私が来た時からあったっけ?」
まだ寒い季節なのに、冷や汗を流しながらお逸が尋ねる。
だけど残念ながら答えはノーだ。
そして私たちは肩掛けと頭巾の持ち主と、その意味するところを知っている!
そう、きっと聞かれたに違いないのだ! いま食堂にいるであろう富田夫人に!
私たちは廊下を駆け下り、玄関ホールの脇にあった大きな箱の陰に隠れた。
「………………………」
「………………………」
食堂の中に人がいる気配はあるのに、一向に扉が開く気配はない。
お互いの呼吸の音が聞こえるくらいの至近距離で、まじまじとお逸と顔を付き合わせていたら、お逸の顔がみるみる間に真っ赤になった。いや、きっと私もそうなっているのだろう。
「……プッ」
一度笑いが零れてしまえば、もう留めようがなくなり、私たちは笑い続けることになった。
しばらくしてから勇気を出して食堂へ行ったところ、母も富田夫人も何事もなかったようにいつも通りの対応をしてくれた。
本当に聞こえていなかったのか、それとも聞かなかった振りをしてくれたのかは分からない。


昼食後、お逸と羽根をついて遊んでいると、富田夫人は母と出て行った。
それから私たちはウィリイの部屋へ上がって、露台からオペラグラスで通行人を眺めた。
その間、お逸は家族のことを一杯話した。
お姉様で長女のゆめさんのこと、
家では小太郎と男名前で呼ばれていた次女の孝さんのこと、
アメリカにいる長男の小鹿さんのこと、
亡くなった<四番目の子供>である次男の四郎さんや、
やはり亡くなった一番下の妹である四女の八重さんのことを。
それからお姉さんの孝さんが持っている素敵な着物のこと、
また将軍の奥方様が勝家においでになった際に着ていた綺麗な着物のことを話してくれた。
「凄かったのよ。着物の後ろを引きずって、まっすぐ立っても“袖が”床に届いちゃうんだもの」
それとお父様である勝提督との話も聞けた。
「私、小さいさい頃、踊りを習っていたんだけどね、最近は見ての通り、ほら、大きくて重くなっちゃったでしょ? この間、久しぶりに練習しようとしたら、父様が云うのよ!」
『踊るんなら、大工を待機させておかねぇと。梁が傾いたらすぐに直しち貰わにゃ、家が壊れちまうからな』
勝提督の言い草に、私は思わず大笑いしてしまった。
ランキン氏が夕食に来られ、ウィリイの部屋に泊まっていった。
ハリー・ランキン氏はとても素敵な方だ。私は十六歳の情熱を傾けて憧れてしまう。
よくお話しになり、なんでも知っておられる。私もあのようになりたい。