Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第31回−8

1877年6月8日 金曜日
今朝、お祈りの用意をしていると、人力車が二台やって来て、徳川公と大久保三郎氏が降りてきた。
さあ大変! 
生徒達は客間から飛び出し、私は二階に駆け上がって綺麗な襟をつけ服装を整えた。
それから下へ降りて行って徳川公と握手し、大久保氏には少し冷たくお辞儀をした。
大久保氏は今日初めて握手をなさろうとしたのだが、私は説明できない片意地から、なんとも思っていない上杉氏や、あまり好きでない矢田部氏のような人には愛想良く快活な態度が取れるのに好意を持っている人には冷たくなったり照れてしまったりする。
こんな自分自身に愛想が尽きてしまう。
大久保氏がカステラのことに触れた時も、心からお礼を云いたかったのに、儀礼的なお礼の言葉を述べ、作るのを手伝いに来て下さることについては一言も口にしなかった。
それでいて実は何か云いたくてたまらなかったのに。
徳川公は月曜にイギリスに発つので、お別れを云いにいらっしゃったのだ。
イギリスに三年いて、それからアメリカに行かれるそうだが、イギリスの、古い栄光を誇るものを見た後でアメリカを見たら、あまりにも対比が強過ぎるだろうから、アメリカが先でないのは残念だと思う。
「いえ、わたしはアメリカが一番良いと思いますがね。イギリスより清潔で、何かにつけて素晴らしい。ロンドンなど、リージェント街以外はすべてひどいものですよ」
大久保氏はご親切にも合衆国を弁護して下さった。
徳川公は五人の随員、つまり大久保業氏、陽気な竹村氏、漢文の先生、着物の世話係、及び給仕人を連れて行かれる。
たいした随員だ。世界の各地を見て回ってさぞ素晴らしい時を過ごされることだろう。
ヴィクトリア女王にもお目にかかる予定だし、他の国々へ行けば貴族たちが歓迎してくれるだろう。何しろ彼は古い大日本の偉大で権威ある将軍家の末裔、三位徳川家達公なのだから。
彼がいつか祖先の地位を占めるようになるかもしれないという噂もある。
有名なご先祖の方々が荘厳に祀られている日光から帰られたばかりだ。
あまりお話はしなかったけれど、私たちに非常に興味をお持ちになったことは明らかなので、行ってしまわれるのは大変心残りがする。
「絽」という美しい絹地を贈り物として下さった。
大久保氏は、古代の太刀持ちのように徳川公の後ろに坐っていた。
今までココナッツケーキを作っていたが、これは美しい化粧鞄とともに、徳川公にお餞別として贈るつもりのものである。