Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第33回−2

1877年7月21日 土曜日
今週はいいことが一杯あったのに、暇がなかったり面倒臭かったりしてあまり日記は書かなかった。
日記とは素晴らしいものだ。
けれど、ハリエット・ニューウェルやアン・ジャドソンの日記を読むと、自分の日記に愛想が尽きてくる。
大事な紙を随分無駄にしたものだ。恐らく死ぬ時には、皆焼いてしまっているだろう。
今日とても楽しいことがあった。
滝村氏と大久保氏が昼食にみえて、その後、旧将軍家の吹上御苑へ連れて行って下さったのだ。
ずば抜けて美しいところで、様々な優雅な風景が見られる。
その昔、諸侯が競い合った馬場や、腕前を試す若い貴族が満ち溢れたと思われる弓道場があり、小滝、池、小川、谷、橋、変わった形の木々があたりに風情を添えていた。
これは箱根路の野生のままの熱帯的な混沌とは違って、洗練され手入れのゆき届いた楽しい庭園であり、広さは約三マイル平方もある。
箱根は綺麗な黒い眼の、薔薇色の頬をした野性的な娘を連想させる。
一方、吹上は上品で美しく、才たけた宮廷の貴婦人を連想させる。
大久保氏は新しい帽子を被っていた。
黒いリボンのついた白い麦藁帽は、今年東京の若者の間で大流行のファッションだ。
非常に若々しく見え、とても十八歳より上だとは思えない。
「実はもう二十歳なのですよ」
こっそりそう教えてくれたけれど、とてもそうは見えない。
「何故、自分の名前をいつも“Ohkubo”と綴るのですか?」
ふと、以前から疑問に思っていることを尋ねてみる。
「私の名前を仮名で書くと“オオクボ(Ohokubo)”ですから、最初の先生がこう綴るように教えてくれたのです」
「子音字を二つ続けるのはあまり感じがよくないですよ」
実際そういった綴りをする人は少ない。
随分歩いたので、少し休憩しましょうということになった。
アディが弁当箱を空けると、そこにあったのは桃一個と干し葡萄とお砂糖、そして何故かマッチ一箱。
皆このアディのお弁当に大笑いした。
「マッチの他は全部頂きましょう」
笑いながら大久保氏は云った。
大久保氏とアディと私は若いので、大抵一緒に歩き、父と母と滝村氏は後からゆっくりとついて来た。
大きな石の砦の頂上から東京の素晴らしい景色が眺められた。
我が家も見えたし、海軍省も、その他の名所もいくつか見えた。
ああ、過ぎ去った日々に、どれだけ多くの凛々しげな若い貴族と美しい貴婦人が、この同じ場所から眺めたことだろう。
この大地に、偉大なる将軍と従者たちの雄々しい足音が響き渡ったのだ。
ああ、忠臣蔵の悲劇を目撃した大地よ! 空よ! 川よ! 
畏敬の念に打たれた我らの目と耳に、過ぎし日の驚くべき出来事を、汝らの無数の舌で語れ!
その後、滝村氏のお宅に三十分ばかりお邪魔して帰宅した。