Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第34回−6

1877年8月31日 金曜日
この一週間横浜のヘップバン家へ行っていた。
私が土曜に行くよう母が先週の金曜日に打ち合わせしておいたのだ。
ヘップバン先生のお宅では、本当に素晴らしい日々を過ごした。
夫人は大変優しくして下さり、先生と私は五時にクローケーをして、毎日住吉町の協会へ行った。
ハツとサダとはよく庭で遊び、タマにエプロンを作ったりして面白かった。
ヘップバン先生の弟子に門屋さんという医学生がいるが、やはり音楽に秀でていてクリスチャンでもある。
ヘップバン夫人は私たち二人に、協会の賛美歌を一緒に練習させた。
それは門屋さんにはっきり覚え込ませるためだったのだけれど、私はとても楽しかった。
この門屋清吾さんは友達として面白いが、声も良くて、私たちが二人で歌うとヘップバンご夫妻はお喜びになった。
ハツとは羽根をついて遊んだりした。
そして私は石榴から素敵な飲み物を発明した。
汁を漉してお砂糖と水を入れたら面白い飲み物ができあがったのだ。
夫人はとても喜んで召し上がって下さった。
けれど、ヘップバン先生は対照的で。
「石榴の木の根はサナダ虫の駆除に使うから嫌だ」
どうぞと差し出しても、首を振るばかり。
「いや、結構。私には虫などおりませんから!」
ハツも好まなかったが、サダと門屋さんには好評だった。
ざくろレモネード」とは門屋さんが名付けた名だ。
皆私のこの調合飲料を面白がって、ご夫妻は来る人ごとに話し、大笑いされる。
門屋さんは瓶詰めにして「ホイットニーのざくろレモネード」と銘打ったら? と云われた。


コールズ夫人が一度車で外出に連れて行って下さったが、私はこの方があまり好きではない。
よくない人だという感じがするし、ヘップバン夫人も「本当に嫌な人」と云われる。
人をなんでも思った通りにさせたがるのだ。
私と同い年の妹さんはとても放埒で、裳裾を引きずり、舞踏会に行ったりもする。
挙げ句の果てに私に向かってこう云うのだ。
「あなたも長いドレスを着て、大人っぽい髪型にしなさいよ」
とんでもない!
私が今まで理想としてきた女性はそんなものではない。
「貴方のその真面目過ぎる生活なんて、つまんないでしょ?」
私の方こそ、彼女の生き方なんて真っ平だ。
これですっかり私は満足しているのだから、放って置いて欲しい。


ある晩、先生と住吉町へ行った。
風と埃がひどいので、私に引き返した方がいいと云われたが、引き返さないでよかったと思う。
満月と美しい星空のもとを、ハツと門屋さんに挟まれて歩いて帰ったのはとても楽しかった。
星について話をし、丘を上りながら、先生に色々質問をした。
門屋さんは自分でその方面の勉強をしている。
翌朝、リッチモンド師の「自然の驚異」という本を持って来て下さり、またこの国特有の軟体動物「海の月」について話して下さった。
ヘップバン先生は、インテナショナル・ホテルに立ち寄り、アイルランドの夫人と紳士を日本の礼拝に連れて行かれた。
その婦人は大変好奇心が強く、日本について私に多くの質問をした。
街のものすべてに目を留め、一人の男の人が青と白の幅広い縞柄の典型的な日本の夏のキモノを着て入って来ると「あれはどういう人なの?」と尋ね、スシや、通りかかったドーナツ売りのことも質問した。
私は自分の知識を披露するよい機会に恵まれ、その婦人がすっかり感心したのでとても嬉しかった。
昨日の午後、庭で花を摘んでいたら母が迎えに来たので、旅行鞄を詰め、最後の「ざくろレモネード」を作った。
それから門屋さんに「さよなら」を云い、写真と交換にうちの住所を教えた。
東京に勉強に来る予定だというので、うちのオルガンで練習したら楽しいだろうと思ったからである。
昨日は私の十七才の誕生日なので、帰宅したら母が綺麗な尾張名古屋の扇子と「小古典名作集」2巻、アディが可愛い小さな銅版画をくれた。