Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

クララの明治日記 超訳版第42回−5

1878年2月23日 土曜日 
お客様は四時頃からぽつぽつみえた。
松平おやおさんとおすみが、まずいつものように時間通りにみえた。
支度が出来上がったところへ小鹿さんとお逸が一台の人力車に乗ってきた。
二人ともとても立派な服装で背が高く、咲き誇る薔薇の花と形のよい杉の木のようだった。
美しい娘と教養の高い息子を見送る勝夫人の目が誇らしげであったとしても許されるであろう。
次に大久保氏が、小鹿さんと同じように立派な洋服を着て来られた。
いつものことながら、始めのうちはぎこちなかったが、食事中にそれはなくなって、女性の方たちは落ち着いた控え目な様子で、男の方たちは元気よく話に花を咲かせた。
三郎さんは、慣れない日本人が初めて洋食を食べた時に、ナイフを爪楊枝代わりに使った話をして、みんなを笑わせた。
食事は全てうまくいった。
食後みんな客間に移って、女の人たちは上手に歌を歌ったり楽器を弾いたりした。
おやおさんとお逸が二重奏をして、それからおやおさんが「鐘」のソロを上手に歌った。
小鹿さんはすっかり魅せられた様子で聞いていた。その後はみんなでゲームに熱中した。
九時過ぎににお客様はお帰りになった。
おやおさんの二人のお伴が迎えに来たけれど、彼らはサムライであるにもかかわらず、家に上がろうとしなかった。
ぶちがまた出て行ってしまい、私は心配でならなかった。
「任せておいて下さい。必ず猫ちゃんは呼び戻せますから」
そう請け合ったカネのおかみさんのセキは、薬屋に行き“またたび”という黄色い粉末を買ってきた。
なんでもこれは猫の大好物なのだそうだ。
二階のベランダに火鉢を持って行き、その粉末を少し燃やすと甘い香りが漂った。
「この香りさえ嗅げば、ぶちだけじゃなくて、近所の猫が残らず家に集まって来ますよ」
私たちは長いこと待ったけれど、ついに一匹の猫も現れなかった。
「この近所にはいないようですね」
セキはそう云って、外へ出て一生懸命にぶちの名前を呼んでくれた。
ところが夕食後。
まさしくぶちの声が遠くの方に聞こえ、だんだん近づいて来たと思ったらぶちが台所口に現れた。
心配していた私のことなどお構いなしに、ニャオニャオと云いながら階段を上がってベランダに到達し、鳴くのをやめると“またたび”の粉末を袋ごと平らげてしまった。
現金なものだ。