Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第47回−3

1878年5月15日 水曜日
松平氏の音楽会に出かける支度をしている間に何人かのお客様がみえた。
まず新田タキジロウ氏が来られた。沼津の近くの新田村に住むご家族のところへ、しばらく帰っておられたのだ。
体が弱く、肺結核のため声が出なくなっている。
でも、体は悪くても魂は「希望に満ちて」いる。
新田氏のおられるうちに、久しくお目にかからなかった佐々木氏がみえた。
彼は聖書を本当に信じている。
信じてはいるのだけれど、この国で信仰を告白するのが怖いのだ。
佐々木氏が教えている十六歳の少年の話をしてくれた。
この少年の心に、聖書の教えに対する尊敬の念を呼び覚ますことができたので、少年は日曜日には前のように遊んでいないで、教会へ行くようになったのだという。
それはたいした成果である。
加賀屋敷を訪問中の、ヘップバン夫人とマレイ夫人も来られた。
二人ともとても親切でいらっしゃる。
ヘップパン夫人にいたっては、私に遊びに来なさいと云われ、火曜日にどうして寄らなかったのか、と云って叱られてしまった。
お客様が帰られ、ウィリイが帰ってきて高木氏もみえたところで夕食にして、食事が終わってから松平邸に向かった。
音楽がお好きで、変わった音楽に興味のおありになるディクソン氏も一緒に来られた。
松平定敬氏と二人の夫人が、私たちを歓迎してくださった。
この前と同じように、まず茶室に案内されたけれど、丁度五人で好都合だった。
この前と同じ香がたちこめ、同じ老人が、同じ小さい急須でお茶を入れて下さった。
すべて前回の再現であった。
しかし二階の様子は違っていた。
この前仲良しになった中浦先生はおいでにならなかったし、その他にも、中央のテーブルの前にこの前の時にいた方々が何人か欠けていた。
それに女性の数が増えていたし、お酒もよけい出た。
月琴の先生の津田氏と二人のお嬢さんは今日もみえていてお近づきになった。
二人は私に住所、姓名、年齢などを尋ね、私は次のようなことを教わった。
お姉さんはお春という名で年齢は十五。
妹さんはおしげという名前である。
二人とも感じの良い娘さんなので、私は高木氏に今度家へお連れして下さいと云った。
夫人はとても親切で、私の横に来てお話をなさり、何も話すことがない時はただにこにこしておられた。
「お写真をください」
私はそうお願いしたのだけれど、六年前に松平氏やお姫様と一緒に撮ったものしかないと云われた。
音楽はとても良かったのだけれど、一つだけ変な楽器があった。
それは蛇の皮でできていて、月夜に窓の外で鳴く猫のように気味の悪い音を出す。
いろいろの曲の披露があった。
それから二人のお嬢さんが三味線を弾いてくれた。
正直とても下手で(少なくとも日本の音楽の素養がない私にはそう思えた)、私たちは退散することにした。
実際には皆さん音楽の魔力よりも、飲み食いに興味がおありのようだった。
邸を出る時に、奥方が小さい包みをそっと私にお渡しになった。
絹地にご自分で刺繍をなさったものだった。