Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第52回−3

1878年7月14日 日曜日
今日の午後、富田氏が来ておられる間に、私とアディは二階の格子のあるベランダから、ディクソン氏が馬に乗ってネクタイを直しながら通っていくのを見た。
あの滑稽な帽子でそれと分かった――兜にトルコのタオルを巻き付けて、横で大きな蝶結びにしたもの。
私たちは部屋の中に身を隠し、彼が通り過ぎてからまたベランダで読書を続けた。
ところがそれから間もなく階下に呼ばれて行ってみると、ディクソン氏が客間に腰掛けていた。
色々お世辞を仰って、いつまでもいた。
そのうちにウィリイから手紙が来て、彼は夕食までいること、そのあと両国橋の花火を一緒に見に行くと書いてあった。
それで私たちは客間の隣に小さいテーブルを用意したけれど、本当に綺麗に見えた。
私たちの即席のお料理は、凝ったお料理よりも成功だったように思う。
食後に支度をしに行き、戻って来ると、ディクソン氏が新しい写真を撮ったので送って下さると仰った。
それからまた、私がアメリカの代表的な新聞に書いていると聞いたと云われたので訂正した。
「し、失礼しましたっ!」
ディクソン氏はさかんに謝られた。
何故そんな勘違いをしたのか話を聞いてみた。
どうやら、ウィリイが「クレア」というのを私がアメリカに記事を送る時の筆名なのだと云ったらしい。


両国への道々は素敵だった。
東京で一番美しいところである西の丸から城内に入った。
雲間に半ば隠れた月が、陰のように壮大な門を照らしており、私たちはそこを通り抜けていった。
敵の攻略を不可能にするために高い土地に築いた櫓。
幾重にも聳え立つ屋根、その一番上には金の魚が飾ってあり、仄かに照らし出されている様は、現実とも思われない。
まるで夢のお城のようだ。
お堀には蓮の花が一面に咲き、それも淡い月の光を浴びて浮世離れした美しさ。
お堀の上の石垣や、草の土手の上に生えている松や杉の木までが、グロテスクな生き物のように見える。
やがて私たちは、浅草門の排水渠の上を渡って、賑やかな浅草に出た。
千畳敷の家」と呼ばれている茶屋の中村に着き、川に面して花火がよく見える庭の席に案内された。
川にはあらゆる色と形の提灯が飾られ、三味線の音が賑やかだった。
とりわけ屋形船の提灯は美しかった。
一艘の船は、柔らかい真珠色に深紅の縁取りのある提灯をつけて通り過ぎていった。
これらの提灯があたりを照らす光は、柔らかく澄んでいて、提灯の光とは思われず、むしろ艶消しをした銀の球から来る光のよう。
赤いものもあれば、青い提灯もあった。
時々、船客が歌ったり踊ったりしている賑やかな船が通り過ぎて行く。
また芝居船が一面に提灯を吊し、笛や太鼓で人の注意を惹きながら通って行く。
私は花火よりもあたりの光景に興味を惹かれた。
更に花火も今までに見たことのないような素晴らしいものだった。
ロケット、彗星、蝋燭、青、赤、緑の光、それから、いくつもの大きい花火、富士山、女の姿、傘、犬、人、文字、その他いろいろの形が現れた。
たえず拍手が起こった。
帰り道では、急に月が雲を離れて皓々と照り、あたり一面が天井の輝きを見せた。
私たちの部屋にも月の光が満ちていた――柔らかな美しい光。
ダイヴァーズ氏、フレッド、イーディーズ、エラが来ており、マーシャル氏もみえた。
ディクソン氏は他に約束があって、私たちと一緒に日光には行かれない。
私たちが落ち着くまで彼の家に住めばよいと云って下さった。