Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第52回−4

1878年7月15日 月曜日
ウイリイが癇癪を起こして、横浜へ行ってしまった。
使用人のヤスがしでかした間違いに腹を立てたのだ。
「ヤスが出るか、自分が家を出るかだ」
遂にそんなことまで宣言する始末。
だけど、いろいろの理由で私たちはヤスにいて貰わなければやっていけない。
ウィリイはかんかんに怒って出て行ってしまった。
後には父がいる。
が、ぶっちゃけ父は家族を守るということにかけては子供のように役に立たないのだ。
高木貞作氏と疋田氏がみえた。それから疋田家の玄亀ちゃんがアディと遊びに来た。
みんなが引き上げた後、母と一緒に東京府知事の楠本氏を訪ねて、ご親切にして頂いたお礼を申し上げた。
前からそうするようにと富田氏にたびたび云われていたのだ。
それに私たちは楠本氏に招待されていた。
そこで我々二人の獰猛勇敢なアメリカ女性が、虎穴に入っていったわけである。
しかし名刺を渡して待っている間に、私の勇敢な魂も些か自信を失いかけた。
ところが立派な身なりの知事はご自分で、戸のところまで迎えに出て来られたので、心配は一度に吹き飛んでしまった。
知事は母に腕を貸して、応接間のソファに導き、私にも坐り心地のよい椅子を動かしてきて下さった。
お決まりの挨拶の後で、父のことと私たちの現状について、いろいろお尋ねになり、私が一つ一つはっきりお答えした。
「どんな家に住んでおられるのです?」
その問いに正直に「長屋」と私が答えると、楠本氏の顔色がさっと変わり、明らかに不快の様子を示された。
その後、近く食事にお招きしたい、いずれ手紙を差し上げます、と云われた。
通訳がいなかったので、私が全部通訳をした。
格式張った漢語を沢山お使いになった――これがお役人の言葉であり、上流人の言葉なのだ。
私はその難しい言葉が分かるには分かるが、自分では殆ど使えない。
私の使う言葉はサムライの言葉で、丁寧であり、平民というか町人というか、そういう人たちの言葉よりも上等である。
上流の女性は皆この言葉を用いる。
やがて雑談の後、小さい贈り物を差し上げてお暇をした。
知事は同じような丁寧な身のこなしで、人力車のところまで送って来て下さった。
「どうして二人で一台の人力車に乗られるのです?」
「途中で母とお話ししたいからです」
そう答えると、知事はからからとお笑いになった。
そこから、学校のことを話すため小石川同人社の中村正直氏を訪ねた。
中村氏はひどい吃音だが大変愛想が良かった。
奥様の鉄子さんと息子さんもご在宅で、二人ともとても感じの良い方たちである。
美しい庭を見せて下さり、何匹かの子猫も見せていただいた。
うちのぶちは、何処かへ行ってしまったのだ。