Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

クララの明治日記 超訳版第53回−2

1878年7月26日 金曜日
午後、お逸が迎えに来たので、一緒におやおさんを訪ねた。
でも出かけるのがとても遅くなってしまった。
というのは、出ようとしたところへ、丁度ヘップバン夫人が来られたので、私はお話をするために出立を遅らせたのだ。
今日が夫人のお誕生日なのだ。
そこで私はキスをして、真珠のプローチと手紙を差し上げた。
お誕生日と云うことを覚えていたのは私だけだったので、夫人はとても喜んで下さった。
それから更に村田氏の紙屋と、領事館の別当と二人の生徒が、みな同時に到着したので、出かけたのは五時近くになってしまった。
気持ちのよい道中だった。
おやおさんは在宅で、私たちを広い玄関まで出迎えて下さった。
この家に来たのは初めてではないけれど、いつ来ても大勢の使用人が跪いて私たちを出迎えて下さるのには驚かされる。。
おやおさんの後について沢山の曲がりくねった廊下を通って、やっと客間に到着した。
畳は実に綺麗で、歩くのが勿体ないようだった。
天井は高く綺麗で、壁紙や襖には松平家の紋があしらってある。
まず私たちはおやおさんの頭痛やおできのお見舞いを云い、お母様がお元気かどうかを伺ってから、おやおさんの部屋に通された。
彼女のお手製のもの――腰掛けや刺繍のある竹の台や踏み台――が置いてあった。
小さい長い机もうあったが、これは彼女やおすみの勉強机なのだそうだ。
そのうちに松平夫人が入って来られた。
ヨーロッパの王女にも似つかわしいような上品な方だ。実際にとても大金持ちで、本当の王女様なのだ。


それから私たちは庭に出て、疲れるまで蟹を捕まえて遊んだ。
いったん中に入ってすぐ失礼しようとしたところ。
「どうしても今しばらくいらして頂けませんか?」
おやおさんの珍しい強引なまでの引き止めにゆっくりしていたら、使用人が夕食を運んできたので吃驚してしまった。
夕食を食べ始めるのが一騒ぎ。
誰も一番先に手を付けようとしないのだ。
「お逸さん、どうぞお茶碗とお椀の蓋を取って下さい」
おやおさんはそう勧めるがお逸は辞退し、私も同様に遠慮した。
「じゃあ、せーの! でね」
結局、三人一緒に蓋を取ることになった。
ところが蓋を取っても、今度は誰も食べ始めようとしないのだ。
でもこの難関も同じようなやりとりを繰り返し、ようやく三人はお上品に食べ始めた。
まずおつゆを一口飲み、それからご飯を一口、それから蒸し卵、それからオムレツ、そしてまたご飯から始めて、これを繰り返し。
結局ご飯を二膳、おつゆをお椀に半分、オムレツを半分とお茶を頂戴した。
そうそう、忘れていた。その前に桜茶が出された。これは桜の花で作るものである。
正直ひどくまずかったのだけれど、私は厳かに飲んだ。
夕食後、再び庭に出た。
小さい寝台のような形をしたものに板を乗せ、筵を敷き、その上に赤い毛布を広げたところへ腰かけるように云われた。
私たちは腰を下ろして白い紙で蝶々を作り、長い髪の毛で扇子の端に結びつけた。
扇ぐとまるで生きているようにひらひらと舞い踊った。
そのうちに松平夫人が縁側に出て来られて、私たちの方をご覧になりながら、お逸の髪の毛や服装をお褒めになった。
七時半にお土産を頂いてお暇した。
「昨日ね、徳川家の奥方様にお会いしに行ったのよ。今年になって三回目かな?」
帰路、お逸が昨日の経験談を語り始めた。
奥方様は将軍家の失われた権力を偲んで、昔の将軍家の衣装を付けておられるとのことだ。
「それでクララから貰った調理本の通りに、アイスクリームを作って差し上げたのよ。
ちゃんと、貴女から教わったものであることも奥方様には伝えたわよ、凄いでしょ?」
お逸は何故だか胸を張って、誇らしげに答えた。
ところで私が気になったのは全然別のことだ。
「将軍家の奥様に会いに行ったのなら、当然正装で行ったのでしょう? まさか、正装のままアイスクリームを作ったの?」
「いや、勿論それは脱いで作ったわよ」
奥方様はお逸に綺麗な簪を二本と、帯と櫛を下さったのだそうだ。
夜、ウィリイと私はド・ボワンヴィル夫妻のところへお食事に招かれて行った。
とても良い方たちである。私は夫人にすっかり魅了されてしまった。