Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第89回−4

1879年8月22日 金曜  
昨日の朝、台所で大騒動が発生。
やさしそうな料理人の金太郎が夫の威厳を示すために、ハルの髪の毛をつかんで引きずりまわし、薪の棒でぶったのだ。
当然のことながら、怒り心頭に発した妻は、私に愚痴をこぼして気晴らしをした。
その挙げ句、今朝、旦那が肉を買いに行って留守の間に逐電してしまった。
「お嬢様、カイモノするから二十銭ください」
ハルが二階に来て、無邪気にそう云うので、多分髪結いさんにでも払うのだろうと思って、そのお金を私は、間抜けにもくれてやった。
しかしその後ハルは現れなかったというわけだ。
金太郎が帰って来てひどく怒った。
ハルが衣装を全部持って行ってしまったのでなおさらだった。
金太郎が云うには、二人は一年前に結婚して、ハルが何歳か年上だそうだ。
もっとも金太郎は棄てられたくせに、あまり堪えてないらしい。
洋服屋に新しい料理人を頼んだところ、すぐに探して来てくれた。
今夜私たちは、大きくて、たくましい男を、金太郎の代わりに雇い入れた。


今日は勝家の虫干しの日。
勝氏のお宅では古い礼装を全部家中に吊してあった。
毎年虫干しをするのがしきたりだそうである。
衣装の中にはとても珍しいものがあった。
特に私が立派だと思ったのは「ナガバカマ」と「カミシモ」だ。
ナガバカマは長い、ひきずるようなズボンで、三尺ほどの長さで、前と後に紋がついている。
「カミシモ」は一種の肩衣のようなもので、両側が翼のように突っ張っていて、やはり紋がついている。
勝氏はそのほかハカマを数具持っておられ、普段用、旅行用、出仕用とそれぞれに合った材料でできている。
旅行用のハカマは厚い繻子で、上の方はゆったりと、下は着手の足にぴったり合うようにできている。
こういうのは「タテ」という。
別の型で「ツネヨシハカマ」と云うのは、立派な錦で、普通の襞が無い。
上等の一般的なハカマは優美な形で、細かく襞があり、とても堅い生地でサワサワ音がする。
キモノにはとても美しいものがある。
柔らかい黒の縮緬で、裏は白い絹地で、厚く錦が入っている。
一室には勝の守の主君であった紀州公方徳川家茂様のご衣装がかけてあった。
五十年も前の貴重な縮緬もある。
一室は全部「火事装束」だった。
形も材料も優美で、どれにも白いビロードを切り抜いた紋が三つ、背と袖についている。
この装束はとても奇妙で、紫、青、黄などの派手な色の布でできており、胸に危害を防ぐためにエプロンのようなものがついている。
上衣、つまり羽織は燕尾服のように後ろが切り込んであり、腰のところに飾りにバンドがついている。
丁度いま私が着けているようなものだ!
もう一枚私の注意を惹いたのは、厚い布地で、影のように薄く昇り竜の絵が描いてあって、戦争の時に鎧の上に着るものである。
ジンバオリ、というらしい。
若き日の勝の守が、このような豪華な装束を着けて、しかも堂々と気高い身のこなしで戦場に赴くさまや、すぐれた名君の御前に進み出る様子が目に見えるようだ。