Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第96回−2

1879年11月8日 土曜
今朝アディを連れて、英国大使館まで歩き、図書館でアストン氏に会った。
背が高く、黒い縮れ毛に、精悍な口ひげ、黒くキラキラした目をしたハンサムな人で、まるでスペイン人のようだ。
私が入ってきたので戸のところにさっと立った時は、本当にそうかと思ったほどだった。
「どうぞ、その暖炉のそばの椅子にお座り下さい。
ああ、なんでしたら、私が事務所の方に行っている間は、書斎もどうぞお使い下さい」
「お忙しいところをお邪魔をしたのでは?」
「いえ、ちょうど書きものを終えたところですので」
やがてブロンドで背が高く物憂げなアストン夫人が入ってきた。
「もうメイエ夫人が戻ってきているので、わざわざ遠いところをご面倒かけるのは気が引けますわ」
それからさも物憂げに二言、三言お愛想を云ったのだけど、私は何故かひどく腹が立った。
森氏は英国公使に任じられ、二週間後には出発なさるので、大好きな奥様にも会えなくなる。
「ロンドンの“私たちの公使館”に来て、三ヶ月位泊まって下さい」
そう仰る奥様に、私はお願い事をした。
ロンドンに着いたら女王様からどんな歓迎を受けたか手紙ですっかり教えて下さるよう約束したのだ。
森夫人は女王様との会見のことをひどく気にしている。
胸の大きく開いたドレスはとても着られないのに、きまりの服装でなければ女王陛下にはお目にかかれないという話だ。
「馬鹿げた慣習だと思いませんか?」
ダイアー夫人にそう尋ねたたら、こんな返事が返ってきた。
「そんなことは決してありません。
もし誰でも好きな格好で行けるようにしたら、どうなると思います?
宮廷はすぐにファッションショーの場と化して、ついにはサーカスみたいになってしまうでしょうよ」
私は特に年配の女性とか、痩せた女性にはこれほどおかしな服装はないと思ったが、ダイアー夫人はカールした髪をふって云われる。
「骨と皮ばかりに痩せていようとどうであろうと関係ありません。
もし女王様にお目にかかるのなら誰でも規則通りの服装をしない訳にはいかないのです」
というわけで、森夫人は服のことでひどく気を揉んでおられる。
確かに森夫人は色が黒く、とても痩せているから、気の毒に、どうしていいのかわからないのだ。
でもロンドンで一ヶ月公使館にいられたらとても楽しいだろう。
でも、実際どうだろう? もう私は砂上の楼閣を建てだしている。
ディクソン氏は私が猫二匹と、蓮と竹を持ってヨーロッパまわりでアメリカに帰る話をしたので、とてもおかしがっているし、もしそんな大荷物を抱えて公使館に行ったら、森夫人も来なさいと云ったことを後悔なさるだろう。
グレイ夫妻が開拓使に連れて行って下さると私を呼びに来られた。
車の中で、この馬は一度ディクソン氏を乗せて暴走し、彼を放り出した馬であることを思いだして、ちょっとドキドキした。
そのあと工学寮に行き、テニスを二、三試合した。
いやな人たちばかりで、形よい指で靴の紐を結んでくれるディクソン氏のような騎士はいなかった。