Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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帰ってきたクララの明治日記 第2−1回

1883年1月9日 氷川町五
勝家の屋敷にある懐しいもとの家に帰って来てから日記を書く機会がなかった。
しかしこれには十分な理由があるのだ。
ここに来て以来母は重い病気にかかっている。
ウォデル家に二、三週間滞在してからここに来だのだが、その最初の晩に母は発病し、その後ずっと寝たきりである。
クリスマスはとてもつまらなかった。誰も来ないし、母は一日中具合が悪かった。
でも二十八日には友達を招いた。そして母も夜には二階から下りて来た。
杉田氏と勝氏のご家族と武夫がみえた。
アディとウィリイと私とでおもてなしなど何から何までした。
その夜私たちははじめてウィリイの幻灯を使い、皆はとても喜んだ。
私たちの新しい家、つまり古い家の新しい部分はまだ完成していないので、私たちは狭苦しいところで暮らしている。
しかしアディはけっこう家政の切りまわしが上達してきた。
お正月には数人の訪問客があったが、特別な仕度はしなかった。
私たちはここでは静かに、そしてまったく日本人のために暮らすつもりだ。
勝家の人たちはとても親切である。皆思いやりがあって友情が厚く、本当にありかたい。
勝氏の若奥様とは大の仲良しでとてもうまくいっている。若奥様は、私に英語を教えて欲しいとおっしやった。
私は玄亀と杉田六蔵も教えることになっている。
母は大山中将から、お嬢様を教えて欲しいと頼まれた。
このように仕事はどんどんやってくる。


1月6日には、勝夫人が福引会に招いてくださった。
出かけたところヤシキの人たちが皆集まっていた。
夫人は私と腕を組んで、別室に案内してくださった。
その部屋で皆はオシショウサマをまん中にして車座に坐った。
私の隣には老人が坐っていたが、この人はまったく耳が不自由で、私と仲よくなり、話をする代わりに、手まねのやり取りをした。
さて皆が笑ったり、冗談をいい合いながら坐っているところへ、オシショウサマがランプの点火棒のような紙こよりの束を持ってきて、お辞儀をしてから、集まっている人たち皆にお世辞をいったり、「おめでとう」とかいろいろおかしなことをしゃべりはじめた。
そしてひとかたまりになって並んで坐っていた子供たちに背を向けて、とても丁寧なお辞儀をしたところ、そのえり首を梅太郎が手をのばしてくすぐった。
それでオシショウサマは後ろにのけぞり、どさっとひっくりかえってしまった。
皆は大笑いをし、オシショウサマは怒ったふりをした。
そして振り向いて可哀想に真犯人の隣にいた小さいセイちゃんをつかまえて、叩きはじめた。
「お隣さんよ、お隣さんよ」
皆が叫ぶと、今度はセイちゃんの向こう側にいた勝家ケライのヨシに向かって行った。
真犯人がわかった丁度その時、勝夫人が「始める時間ですよ」とおっしゃったので、このいたずら者は罰を受けずにすんだ。
各自が一本ずつくじをひいた。
くじには短いことばと番号が書いてあり、その番号と贈り物の番号が合うようになっていた。
すぐに贈り物が運びこまれ、とても面白かった。
耳の不自由なわが老友は、鏡をひきあてた。
おじいさんは、歩きまわってムスメのように口紅をつけたり、顔に白粉をつけたりして皆を面白がらせた。
ヨシは赤と青の襟巻きを当てた。これは勝夫人がお逸さんの赤ちゃんのために作ったが小さすぎたもの。
小鹿さんの奥様は、すり鉢とすりこ木を当てたが、それには注意書がついていて、働きに行くか、さもなければそれを頭上にのせて踊りなさいと書いてあった。
だが若奥様はどちらもしなかった。
玄亀はマッチ箱を、疋田夫人は天狗の面を、そしてセイちゃんは紙白粉を当てた。
「お前には大いに必要だよ、顔が黒いからね」
やさしい叔父様がいった。
歩けないおばあさんは草履を、ヨーロッパ人のように髪を刈っている梅太郎は、日本人が髪を結うのに使う紐を一束。だからこれは無用の長物だ。
私も同じものを当てたが、そのほかに立派なお盆と奇妙な時計入れと羽子板とをいただいた。
アディは行かなかったけれど、私が代にわりにくじをひいて、羽子板とインク箱とかんざしを当てた。
とても楽しくて、上機嫌で笑ったり冗談を言いあって別れた。
お正月には、夫人たちは皆晴着で来てくださった。とてもきれい! 
母は自分の部屋にお通しして皆さんに新年のカードをあげた。
勝夫人のには、過ぎ行く年月と、心を若く持つということについて何か書いてあった。
「ナルホド」と夫人は言われた。
「年ごとに私は年をとります、でも心の中ではクララさんと同じように若く感じています」


梅太郎は今月中に出発することになっている。
彼は善良な信心深い少年であり人生の唯一の目的は日本人のための宣教師になることなのだ。
そのために長崎の神学校に入り、英語ができるようになったら、アメリカに行くつもりである。
みなそれには反対で、私たちも「ここにいて父上の意向に従いなさい」と勧めているが、梅太郎は堅く決心している。
「人我に従わんと欲せば己れを捨て、おのが十字架を負いて我に従え」(マタイ伝一六・二四)
そう言い給うたキリストの言葉どおりにしたいと言っている。
これこそキリストが自分に負わせようとなさる十字架であると梅太郎は考えている。
可哀想に、彼は間違っているのではないかと思う。
勝氏は梅太郎を軍人か金細工師にするつもりらしいが、本人はキリストの教えを説教したいと言っている。
梅太郎は外見は大人でも、精神的にはまだ子供で、家を離れることはよくないと私たちは皆心配している。
彼は大体大人しすぎて感受性が強すぎるし、好きな人のいいなりになってしまう。
しかし家にいてもたいして為にならないことも確かである。
学校にも行っていないし、勉強は気が向いた時しかしないで、ほとんど一日中おしゃべりをしたり遊んだりしている。
最も愛想がよくて、それでいて最もなまけ者である。
多くの善い素質を持ち、キリスト教に関しては、しっかりとした目的を持っているのだが。
でも彼を選び、彼のために計らい給うことが、天の父の思し召しであるならともかく、私たちはとても心配だ。
梅太郎は、ショー氏がイギリスに発つ時に一緒に行くつもりで、いつ帰るという予定もない。