Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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帰ってきたクララの明治日記 第8回−4

1883年8月8日 
ほんの一年前の今日、私はなんと豊かで幸福であったことか。
そして今は貧しくとり残されて。
私はスコットランドにいたのである。
あの美しいスコットランドに。
クライド川をのぼってアランヘ素敵な旅をしていた。
私はあの雲一つない美しい日を、静かにゆく流れを、そして私たちのうきうきした気分を、絶対に忘れることはできない。
ほのやさしいおだやかな顔、ディクソン氏の快活な打ちとけた笑い、我が心の快楽への完全な没入。
しかし今は、私の、そして逝き給うた母の環境は、なんと変わってしまったことか。
母は現在更に輝かしい空を、一層美しい丘を、そして、流れて行く清澄な川を見ている。
母は栄光のうちに、あの日のことを記憶しているであろうか。
母は自分の「朱筆日記帳」に特筆すべき日として赤文字でその日付をつけさせたことを。


きのう私たちは朝鮮の公使たちにおもてなしをした。
お客は五名で、明るい色の紗のような布地の服を幾重にも重ねてある特有の民族衣装をつけて、背丈が高く立派な容姿の人たちであった。
ところで、公使自身は皇太子の令息であるが、ピンクの袖のついた孔雀色の青い衣服を着、馬の毛でできている大きな丸い帽子を被っていたが、その帽子の山はとても小さくて高かった。
宰相の令息である副公使は全部青の紗をまとっていた。
そのほかに司教冠のような形の帽子をかぶり灰色の衣服を着た人が一人と、白い衣服の人が二人いた。
主要な人物たちは一連の琥珀の玉を帽子につけ、それが顎の下を通り結び目は腰のずっと下の方までぶら下がっていた。
彼らの毛髪は頭の上でたいそう入念に結ってあり、すき通って見える帽子の下で真直ぐに高く立っていた。
中に日本語を話せる人が二人いて、私たちはその人たちと口をきいた。
彼らの発音はなんとなく違っていたが、それでもかなりよく通じ合えた。
その中の一人は特に私に対して丁寧で、築地のお宅に招いてくださった。
公使自身も私に朝鮮へ来るようにとおっしゃった。
私はこの著名な方たちに紹介された時、何と云ったらよいのかよくわからなかった。
日本語を頭に浮かべて「ミナサマ、ヨクイラッシャイマシタ」と言ったところ、彼らは私の日本語がよくわかり、非常に嬉しそうに見えた。
私が幻灯の用意で忙しくしていた時、白い衣服の紳士がごく自然な態度で「ゴクロウサマ」と言った。
ココ榔子の実があったので、それをお客様のお慰めにと割った。
ウィリイが二つの穴、いいかえれば二つの眼をくりぬいて、それを割った時、彼らは笑いながら「痛くて泣いているのです、この果汁は涙ですよ」と言った。
私たちは一行をもてなして、とても楽しい時を過ごした。
そして皆が誠に礼儀正しく、心からもてなしを受けてくれていることを知った。
一行のうちの一人は兄のオックスフォードの帽子に興味をもち、それをかぶってみたりした。
そして、ウィリイにも自分の奇妙なかぶり物をかぶってみるように、と言って渡した。
ウィリィは日本の医療伝道師を朝鮮に送りたいと切望し、日本が東洋の伝道者になるべきだという考えを抱いている。
この案はもともと母から出たもので、私たちは母のためにペストを尽くして、それを実行に移したいと思っている。
四人の朝鮮人は身に相当の危険があるのだが、すでにクリスチャンになっていた。