Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第8回−4

1876年2月2日 水曜日 
「今から八年前、我々人民を永きにわたり圧殺していた幕府は新時代の槌によって滅びを迎えた。しかし数百年振りに政権を取り戻された帝も、その実は薩長の支配する政府の傀儡に過ぎない。そして極一部の人間だけが新たな特権を得て、幕府と同様、いや、更なる苛烈な施策を我々人民に今まさに押しつけようとしている。
鑑みるに、我が国の人民が置かれた立場は依然として、アメリカ合衆国がまだ宗主国たるイギリスの支配下にあった時代のそれと変わらない。だとすれば、近いうちに人民の反乱が起こり、パトリック・ヘンリーの云う『我に自由を与えよ、然らずんば死を与えよ』という叫びが野を覆い尽くすのも時間の問題であろう!」
午後になっておいでになったカローザーズ夫人は、心底困った顔をされていた。
夫人の生徒の一人の父親は朝野新聞の記者であったのだけれど、冒頭のような大檄文を発信してしまったため、三年間投獄されることになってしまったのだ。
「しかも父親と一緒に住んでいる女の人がとても悪い人で、綺麗で若い十七歳のその少女を茶屋に連れていって住まわせようとしているのですよ」
「茶屋に、ですか?」
カローザーズ夫人の言葉に私は首を捻る。茶屋で働く給仕になれ、ということだろうか? だけど言葉を濁す夫人と、言葉にする事さえ汚らわしいといった風の母の反応で“そういう意味”なのだとようやく悟る。
「その少女を助けるために、食費分の援助をお願いできませんか?」
それが夫人が我が家を訪れた本題だった。母は一ドル、富田夫人は五十セント、私も五十セント出したが、誰かが残り三ドルを出してくれるだろう。
夕刻、横浜に出掛けていたウィリイがアメリカからのクリスマスプレゼントの入った箱など、素晴らしいものを持って帰ってきた。
ああ嬉しい! 去年の十月に出したのに、今頃やっと着いたのだ。パナマ経由でもないのに、何故遅れたのか分からない。
中には綺麗で便利な物がいっぱい、それから、ドーラやオスカーの手紙が入っていた。ブリキのおもちゃやいろんな種類のお人形。可愛い人形はアディへの贈り物だが、目が開いたり閉じたりする人形は日本では見られない。それから本が数冊。富田夫人には、私のと同じような聖書と美しいネクタイが贈られ、森氏のお母様宛の毛糸の上履きまであった。リビー叔母さんは、切り取り線の入った練習帳、針刺し、本物のアメリカのキャンディー、貝製品、キャラコ、毛糸、薬、楽譜、手芸品等々を送って下さった。うれしくて、うれしくて、何度値なども跳びはね、ほとんど夕食も食べられないほどだった。
それに以前母が横浜で頼んでおいてくれた肩掛け用の毛糸、針、ズック、刺繍糸とか、沢山綺麗な物も届いたので、吃驚した――こんなに一度に沢山の物が来るなんて、ああ、うれしい! うれしい!! うれしい!!!! 
友達に私たちを忘れないで下さって、神様、本当に有り難うございます。