Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第10回−2

1876年2月25日 金曜日
今朝は気持ちの良い日だった。大鳥圭介氏が五十日間長崎においでになる予定なので、お発ちになる前に夕食にお呼びしたのだ。午前中に土曜日の仕事はあらかたしてしまった。つまり掃除をしてケーキを作っただけなのだけど。
昼食後にビンガム夫人がおみえになり、長い間とても楽しいお話をした。
「日本人って本当に気の毒な方たちですね」
夫人はしみじみとおっしゃった。バチェルダー夫人のように、ボンネットを引きはがされたり、別の夫人のように肩掛けを引っ張られたりするような非礼な目におあいになったことがなく、日本人は悪気ではなく好奇心からそういう行為をするのだとビンガム夫人は思っていらっしゃる。
「わたくし、自分の持ち物を日本人がじろじろと見ているときには、もっとよく見られるように、それを渡して差し上げますのよ」
そうそう、私自身、いつか向島で茶屋に坐っていた時、二人の女の人が私の帽子をじろじろ見ていたので、帽子を脱いで渡し、もっとよく見せてあげたら女の人が喜んだことがあった。そしてその日本人達は一緒にいた中原氏と高木氏に「どうしてアメリカの夫人は色が白いの」とか「どんな白粉を使っているのか」と尋ねていたっけ。
夫人と話をしていたら中原氏がみえた。
「申し訳ありません、お取り込み中のようですからまた日を改めて」
頑として帰ると仰る中原氏を説き伏せると、丁度大鳥氏がおいでになり、夕食は何もかも好調子に進んだ。大鳥氏も中原氏も最上機嫌で、気まずさも堅苦しさもなく、全て素晴らしかった。
「クララさん、約束していた写真、どうかお願いしますよ」
中原氏は手を合わせて、一枚で良いから私の写真をくれと何度も何度も頼んでこられた挙げ句、部屋中を追いかけっこする羽目になった。
当然そんなことをして貰いたくない日本人もいるが、中原氏はアメリカにも長くいたことがあるとても親切ないい方だから、これは冗談だと分かっている。
「私の好きなのは金髪です」
私がそうやって話題を変えてみせると、中原氏は例の悪戯っぽい目で見ながら、溜息をつくふりをして、こう云われた。
「オヤオヤ、私にはなんの魅力もないわけですね!」
そう云って、中原氏はとてもふざけた絶望的な様子で漆黒の髪を撫でた。
「この家に来るのと楽しいですから、仕事が終わった三時以降の夕方、ちょくちょく来てもよろしいですか?」と尋ねられた。
今日は本当に素晴らしい夕方だった。大鳥氏は母に、天皇の庭園、お浜御殿と吹上の入園券を下さった。私は中原氏のところの小さな甥っ子さんにとお菓子を持たせたが、今度の日曜に連れてくるそうだ。中原氏がうちを好いて下さるのが嬉しい。それによって私たちも中原氏のためになることができるのだから。