Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第14回−4

1876年5月10日 水曜日
今日、母が松平夫人を食事にお招きし、勝夫人にもおいで頂くように伝言した。
午前に令嬢達が来たが、私たちが彼らを二階の奥の部屋にアディと一緒に閉じこめてしまうと、彼らは縫い物をしたり、遊んだりして時を過ごしていた。母と私はかなりきびきびと立ち働いて、お客様を迎える準備をした。三浦夫人もみえた。
「雨がひどいわね。晴れそうにもないから、松平夫人はおいでになられるのかしら?」
松平夫人は肺癌だ。人力車にせよ、馬車にせよ、車に揺られてやってくるのは辛い筈だ。
「いいえ、お義母さまはきっと来ると思いますよ」
例のおっとりした口調で、しかし、おやおさんは迷いなく断言する。
「なにせ外国人の家に行ったことがないのですもの。今日の招待をとても喜んでおりましたから」
そしてこう云うのを日本では「噂をすれば影」というらしいけれど、本当に松平夫人はおみえになった! 付き添いの人が二人、おすみのお父さんと女の人が一緒にだ。
「ご招待どうも有り難うございます」
続いていらした勝夫人は、二人の「子猫」を連れて来られた。
「!」
相変わらず勝逸嬢はとても綺麗で、美しい着物を着ていた。思わず見とれそうになってしまう。彼女ににっこりと微笑み返されるだけで、とても幸せな気分なれるのが不思議だ。
母、富田夫人、盛、アディと私を入れて、我が家の人口は全部で十四人にもなった。お客様はとても素敵な役に立つ贈り物を下さった。しかし私たちは、日本のこのような習慣にどうしても慣れることが出来ないし、こんなことを考えてもいなかったので、ケーキと小間物しかお返しできなかった。
「お返しなど大名家の方はたいして気にかけたり期待などしないから、素晴らしい贈り物などあげなくてもよいのですよ」
しきりに富田夫人はそう云われるけれど、どうしても気にしないわけにはいかない。
ただ食事の方は殆ど全員が満足して下さったようだ。その後で母はもてなしとしてご婦人たちに家事的技能の見本をお見せした。ミシン、ドレス、ベット、掛け布団、羽布団などが何よりも皆さんの興味を引いたようだ。
その間、父はおすみのお父様を喫煙するため別室に連れて行き、私は子供たちをチェッカーやジャックストローや輪投げといった、アメリカの遊びで楽しませた。
それから大人たちが下りてきて、私たちと一緒に床に坐り、はめ絵やゲームに手を貸したりしたが、皆とても面白がっていた。
「今日は大変に楽しかったですわ」
松平夫人は六時頃にお帰りなる時、はっきりと云われた。
「あれは松平夫人の本心で、よくあるような日本的儀礼ではないと思いますよ」
富田夫人は、ご自身が日本人であるが故に、私たちに気を遣ってそう云って下さった。


このように一緒に寄り集まって社交的に交わるのは、日本の婦人たちにとって本当にいいことだ。事実、この国では女の人は結婚すると、殆ど訪問することがない。結婚前だって、良家の子女なら深層に育ち、社会的儀礼や快楽はすべて男だけのものである。これは恥ずべきことだ。
富田夫人はあらゆる面で新しい思想を身につけようとしておられる。いつだったか、あるお寺のそばを通った時のことだ。
「父があそこに葬られています」富田夫人は突然そう切り出してきた。
「ああ」私はそう答えてから、何か云わなくてはと思ってこう尋ねた。「他の日本人のようなお墓参りに行くのですか?」
「今年は行ってないけれど、去年行きました」
「どうして今行かないのですか」そう聞くと、静かに笑って、こうお答えになった。
「そうですね、父はあそこにはいませんもの。あそこにあるのは、塵と石だけですわ。石なんて拝むことはできません!」
そう、夫人は分かっておられるのだ! 神様、あなたが夫人に崇められたいと望み、そうすることを命令しておられるのだということを夫人が理解できますように! 
富田夫人が本物のクリスチャンであって欲しい。確かに夫人はキリストとその力を信じている。しかし、それが悪魔の信仰なのか、神の子の信仰なのか現段階では何とも云えない。それが良い土地に落ちた良い種のように本当のものであり、石だらけの地に落ちて、いざ証しを立てようという時に死んでしまうようなものでないことを願っている。