Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第15回−2

1876年5月16日 火曜日
今日は私にとって大変楽しい日だった。おやおさんたちの授業はお休みにすることとして、まずは新しい部屋を整えるのに忙しかった。
新しい客間はとても綺麗になったと思う。新しい食堂もまさに素晴らしい。物事に専念した結果、やっていることにぴたりと呼吸が合うというのは、非常に満足感があることだ。全てが終わって腰を下ろし、自分自身が実際に働いて成し遂げた後を眺めると、澄み切った喜びの溜息が出てくるものだ。ああ、本当に気持ちがいい!
昼食後、吹上の天皇の御苑へ一緒に行くため、中原氏がお母様と妹さんを連れて来た。中原夫人は、勿論息子さんよりずっとお年を召していらっしゃるが、中原氏にとてもよく似ておられる。五十を超えたところだが、日本の女の人の例に漏れず、大変年寄りに見える。日本の女の人は随分早く老けていくのだ。妹のおすえさんは十六歳で、本当に綺麗だけどあどけない顔をしていて、明日皇后様の女学校に行くことになっている。私たちはお客様を新しい部屋にお通ししてから、二階に上がって着替えた。
今日はとても暖かくて、冬服ではあまり気持ちよくなかったけれども、とにかく人力車に乗り込み出発した。途中はひどく暑かったが、すぐにお庭に着いた。
吹上は麹町の英国公使館のそばにある。お庭の前に美しいお堀があって、以前はそこに古いお城が建っていた。入って奥の門に着くと、私たちは人力車を降りて歩いた。両側に営舎があり、兵隊がぶらついたり、芝生に大の字に寝そべっていたりした。
ああ、ここはなんと美しい場所だろう! 
正面には新鮮な澄んだ泉が湧き出ており、疲れて上気した労働者たちが埃に塗れた熱い手足を浸していた。私たちは小さな流れに沿ってそぞろ歩きをしたが、丈の高い緑の竹が、まるで下を歩いている人々に天から送られた言葉を囁いているかのように、柳に似た軽い葉を揺らしていた。


沢山道があるので、同時に入園した他の日本人は別の道を行ったらしく、日陰の小道をいくつも上がって行くうちに、私たちだけになっていた。つまり母とアディと富田夫人と中原氏のお母様と、おすえさんと中原氏と私である。
歩きながら、あちこちで野苺や小さな花を摘んだり、緑の木の葉を摘み取ったりした。ちっとも暑くなく、つばの広い帽子を被っている上に木陰も多いので日傘はいらない。
「日傘を差し掛けてあげますから。遠慮なさらずに」
それでも中原氏は私にそう云って聞かなかった。私はあんまり何度も立ち止まって花を摘んだので、歩調を合わせられず、中原氏を苛立たせてしまったのではないかと思う。
特に魅力的な場所があった。それは田舎風の並木路で、色々な種類の堂々とした木が両側に並び、木の間を漏れる日光が、平坦な道と私たちの頭上に静かな祝福を注いでいた。
私はこの場所がとても気に入ったが、我が護衛者もその美しさに感動したらしい。
「月光のもとでここを散策したり、柔らかい緑の絨毯の上で踊ったりしたら、さぞ素晴らしいでしょうね」
しばらく行ったところには井戸があり、茶碗で清らかな水を飲むと、すっかり爽やかな気分になった。もう少し先に小さな家があったので、そこの玄関口に坐って休み、軽食にケーキを食べた。
それから私たちはまた歩き始め陽気にお喋りをしたけれど、中原氏の話してくれた竹に関する物語はとても綺麗だった。
「一番素敵だと思う花を、取って置きたいから押し花にしておいて下さい」
楽しい四時間の最後に中原氏にそうお願いしてから、両国橋のそばの茶屋に行って、有名な日本料理を頂いた。