Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第15回−4

1876年5月22日 月曜日
今日は職人達が、新しい部屋を建てるためにせっせと働いている。
私は彼らが働いているのを見るのが大好きだ! 今、土台を築いていて、杭を打ち込んだり重い石を持ち上げたりしながら歌っているのが聞こえる。その歌は意味のないもので、美しくはないけれど、人の心を惹きつける野性的な響きがある。
今朝中原氏が訪ねて来られたが、裏口からふらりと入って、知らない間に上がって来た。この前は私たち二人で、森氏の屋根裏部屋だったところの窓から外を見ながら楽隊を聞いていた。楽隊が演奏しているのは「かつて我幸せなりき、されど今は孤独なり」だ。
中原氏は溜息をつきながら、一人ごちるようにつぶやく。
「ああ、私は全然幸せじゃありません」
「えっ?」
私は驚きの言葉を発し、半ば窘めるように告げる。
「お母様や妹さんがいらっしゃるのだから幸せな筈です!」
だけど中原氏は肩をすくめてこう答えるのだ。
「私の求めているのは別の幸福です」
私は笑い出さずにはいられなくて、例えば富士山か日光かへ転地なさったらと勧めたが、中原氏はただ溜息をつくだけだった。
「ロウリーの胆汁薬をたっぷりお飲みになるといいのよ」
もっとも母あたりに云わせると、その一言で十分らしい。


「中原氏はそろそろ結婚なさるんじゃないか?」
夕食時に兄のウィリイがなんの気なしにそう切り出した。中原氏はあまりにもいい人だから、結婚なんかするのは本当に惜しいと思う。
などと思っていたら、帰国したばかりの浅野氏が丁度来られて突然こう告げられたのだ。
「中原さんは結婚なさったそうですね」
あ! もしそうだったら、多分妹さんというのが、やはり「オカミサン」なのだ! そして私たちをずっと騙してきたのだ! それも知らずに私は、今日、妹さんに持っていって下さいと云って、薔薇の花を中原氏にあげたのだ。なんて道化みたいなことをしたんだろう。
その浅野氏は日本に嫌気が差していて、我が家にやってくると、必ず口癖のように云う。
アメリカに帰りたくて仕方がありません。僕は日本の家も、都市も、街も、友達の女の子も気に入らないんです。アメリカのもの、特に若い夫人たちは素晴らしい! ピアノやオルガンはとても好きなのですが、三味線や琴は大嫌いです。あんな騒音みたいな楽器の何処がよいのですか!?」
もっとも、富田夫人が云うには、これらの浅野氏の言葉も「全ては西洋の文化に対するお世辞」なのだそうだ。日本人の自国を貶め、他国を褒めるような話し方は、率直に云って随分変だと思う。