Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第15回−7

1876年5月30日 火曜日
昨日から私は富田夫人と喧嘩している。事の始まりは、高木氏から聞いた何げない一言だった。
「富田夫人に私と中原氏のお嫁さんを探して頂いているのですよ」
母はすっかり衝撃を受けたけれど、私だってそうだ。我が家に結婚仲介人が! その憤りのままに富田夫人の所へ駆け寄って、率直に本当かと尋ねた。
アメリカではそのような結婚斡旋業の世話になるのは最下等の女性だけです!」
私たちが以前から云っていたことだったから、富田夫人は困った様子だった。
「いいえ、そんなことはしていませんよ」
最初は否定していた夫人だけれど、私の問いつめに遂に観念したようだ。
「高木氏のためにはお嬢さんを探していますけれど、中原氏には冗談で云っただけです」
こればかりは譲れないことなので、私はこのことについて富田夫人にお説教をすることにし、最後に念押しで「私たちの学校に傷が付くから、そんな不名誉なことはここでは許されません」と云って話を結んだ。
そうだ! ここに若い少女たちを来させるのは、勉強を教え正しい純粋な思想を伝えるためなのであって、若い男女に奥さんとして渡すためではない。私たちはこんなことのために日本に来たのではない! 
もし富田夫人が高木氏に綺麗な少女を探しているとすれば、うちの少女たちを来させるわけにはいかない。高木氏が結婚したいのなら、自分で奥さんを勝ち取らせればよい。見も知らぬうちに少女を捕まえて不幸にしてしまう蛮行は許すべきではない!
すると富田夫人は、日本の習慣を口実にした。私がそれは恥ずべき習慣だと云っても、富田夫人はなおも反論された。
「もし自分のような人がお世話しないと、若い女の子は結婚など出来ないでしょう」
「!」
そんな嫌らしい考えを耳にすると、胸がむかむかする! そんなことは考えられない。
懐かしい自由なアメリカに生まれて教育を受けたことを、私は本当に有り難いと思う。こんな不愉快な事柄についてはもう書くことができない。ああ、いやだ。


津田氏のところから、一ポンド四セントで、毎日美しい苺を頂いている。
午後から夕方にかけて中原氏が訪ねてきた。老画家もおいでになった。<二人はいつも同時にみえるのだ>。私はこの老紳士のためにオルガンを弾いたが、彼はすっかり音楽に魅了されて、アメリカの少年のようにオルガンに寄りかかり、楽譜の頁を捲って下さった。
「音楽を楽しく聴かせていただきました」
教室で父のために翻訳をしていた中原氏が、私と握手をしに入って来るなり云った。
「音楽を楽しく聴かせていただきました」
私は中原氏のために弾いたのではないのに! 間もなく再び、今度は父と客間に入ってきて「もっと弾いて下さい」と頼んだ。
私は父が出て行くまでわざと返事をしなかった。出て行ってから、私はようやく振り向いて、先日浅野氏から聞いた話が本当かどうか知るべく変化球を放ってみた。
「婚約なさったそうですね。結婚式には招待して下さらないと、二度と口を利きませんわよ」
それだけ云って、私はオルガンを弾き始めた。
「ちょっと待って下さい!」
中原氏は私を止めて、どういうことか聞きたいと云った。私はちょっとからかってから、最近頻繁に聞く「妹さん=奥さん」説について問いただした。
椅子に寄りかかって聞いていた中原氏は、だけど私の話を聞くと長い間笑っていた。
「おや、おや、何処でそんなことを聞いたんですか」
私ははっきりとは云わなかったけれど、それとなく知らせた。だけど中原氏は怒らず、それを面白い冗談として受け止めたようだ。
「多くの青年が奥さんを探し回っていますから、男はある年齢になると疑われるのですね。だけどあなたはそんなことは信じないで下さい。私は一生独身でいるつもりですから、そんなことはしませんよ!」
私が考えていたのとは違って、驚きもせず、顔色も変えず、震えもしないで、私をまっすぐに見ながら、大胆に機嫌良く笑った。
夕食後、私について中原氏は食堂に戻り、再びその話が始まった。私は日本の女性の少女時代について、また女性の低い地位について思っていることを、それからそのことでどんなに不快な思いをしたかを話した。
「中原さんが結婚しても構いませんけれど、まるでリンゴでももぎ取るように、女学校の女の子を求めて仲介人を送り込まないで下さいね」
そうつけ加えるのを忘れなかった。私は自分の意見をかなり徹底的に述べたが、中原氏が議論しようとするので余計駆り立てられた。中原氏は帰り際に握手をしながら云った。
「この次来る時は、もっと面白い話を持ってきますよ」
「多分この次はあなたは結婚したといえるようになっているのでしょうね」
そう云い返しながらも、今度の日曜の夕方、私は中原氏と一緒に教会に行く約束をした。