Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第16回−6

1876年6月20日 火曜日
今日の午後、人力車で外出することにした。何処に行くのか出掛けた後も迷っていたのだけれど、結局は上野に着いた。
人が殆どいなくて道は楽に通れた。精養軒の小綺麗な支店に行き、アイスクリームを買おうとしたがないので、風通しのよいベランダでお茶とケーキをとった。ベランダからは美しい公園は勿論、東京の一部も見渡せた。
「ここではアイスクリームは売っていないのですか?」
お茶のお代わりを持ってきてくれた店員に聞いてみると
「わたくしどもの店では休日である日曜日にしか売っていないのですよ」
「私たちは日曜日以外の日はいつでも来られるけれど、アメリカの習慣では日曜日には外出できないのです」
残念そうにそう云ったら、店の人は驚いた顔をして「ナルホド!」と重々しく頷いた。それから彼はある提案を私にした。
「お嬢さん、是非クローケーを始めてくれませんか」
なんでも店側は道具と競技場を揃えたものの、誰もやらないので、私たちに是非始めてくれということらしい。私は少しだけ悩んでから「考えてみますね」と云った。
ダイブツの鐘が厳かに鳴るのが聞こえたが、日本の鐘には舌がなく、鐘楼から吊された大きな丸太を下から操作して打つのだ。
帰りはまだ通ったことのない田舎道を通ったけれど、大きさも高さも巨大な杉と松の木があった。きっとそれはレバノン杉だと思う。小形の築山の下にニフィートぐらいの高さの小さなお宮があり、少し先に行くと、枝を広げた松の木の下に六フィートの仏像があった。お寺を沢山通り過ぎたが、皆閉まっていて、一つのお寺からはお坊さんの単調なお経の声が聞こえてきた。
今夜は采女町にある精養軒本店で盛大な宴会がやっているけれど、これは炭坑の調査に蝦夷に行く大鳥氏の歓送会だ。みんなの声の中から大鳥氏のあの底抜けの笑い声が聞き分けられる。
うちの東の窓から見ると、精養軒ホテルはあかあかと明かりがついて輝いている。このホテルがうちの近くにあってよかった。故国のような感じがし、おかげで郷愁から辛うじて逃れることが出来るからだ。