Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第16回−7(日付の関係で一日ズレ)

1876年6月28日 水曜日
月曜の午前、母と父とウィリイと富田夫人は、森家の午餐に行った。本当は先週の水曜日の予定だったのだけれど、何かの手違い――断っておくと日本人側の失策だ――があって行かなかったのだ。アディと私も招待されたが、私たちはまだ社交界デビューしていないので、お断り申し上げた。
何事も起こらない――まったく何事も。それでも日記帳を一杯にするだけのことは毎日ある。何か見つけようとしさえすれば、書くことは沢山ある。
ここ数日、マーク・トゥエインの「イノセント・アプロード」を読んでいるけれど、馬鹿げたほど滑稽なところもあれば、素晴らしい描写や哀愁に満ちた箇所もある。この作者はなんと素晴らしい才能の持ち主なのだろう! 私もこんな才能があったら、この古臭い国を元にして面白い本が書けるのに。
今度の火曜は独立記念日だから、横浜で他のアメリカ人達と一緒に祝うように招待されている。七月七日には、両国橋近くで隅田川の川開き大会があるそうだが、これらも誘われている。
東京府は、東京の人々に、髪を洋風に切るようにお触れを出した。また同じく東京府は、小野寺氏が上海に行ってしまわれた代わりに、立派な人を私たちの学校の理事に任命した。この方は矢野二郎氏といって、ご自分も奥様もアメリカに行かれたことがある。松平氏のよう美男子<!!>だが、とても温厚で親切な方だ。
この季節は、様々な色の美しい睡蓮が花盛りである。昨日、盛から聞いたところによると、その素晴らしい色は自然の色ではなくて、変わった色が欲しい時には白い花をインクのような物で染めるのだそうだ! よくまあそんなことを器用にやるものだ。もう日本人の細やかさにはうんざりだ。


母と富田夫人と杉田夫人とウィリイは今日の午後、施餓鬼という清国起源の古くからある儀式を見に浅草に行った。みんなを送り出し、猫と戯れていたか、玄関の呼び鈴が鳴った。
「こんにちは」
開いた玄関から現れたのは、中原氏だった。まあ大変! 私は家庭着のままで袖口飾りもつけず、午後には相応しくないひどい格好をしていた。
「客間で待っていて下さい」
慌ててそう頼み、着替えに二階に行こうとしたが「どうぞいて下さい。長くはお邪魔できないのですから」と中原氏に引き留められた。
それで私は戻って、一時間半お喋りをした。中原氏はここしばらく本当に病気が悪く、仕事にも出られなかったので、うちにも来られなかったのだ。
「夏の間、静養に田舎に少しの間、戻ることになるかも知れません」
「!」
もし中原氏が夏を過ごしに田舎に行ってしまったら、私たちはどうしたらいいか分からないから、行かないで貰いたい。中原氏は故郷の近くの何処かの島に連れていってあげると云って下さったけれど、日本人の約束などあまり当てにならない。
それから上野での出来事を話してみたら中原氏は乗り気になったようだ。
「いつか行って、そのクローケーを始めましょうか」
でも私は心の中で「いえ、結構でございます」と思うだけで、返事をしなかった。中原氏の訪問はとても楽しかったけれど、ちゃんとした服装に着替えていたら、もっと快適だったろう。
中原氏が帰った後、また誰か来ないうちに二階に上がって着替えた。着替え終わって間もなく、今度は佐々木氏が訪ねてきた。
骨相学の話題が出たけれど、佐々木氏は「聞いたことがありません」と云われた。
私は「頭蓋の隆起」のいくつかの型を説明すると、佐々木氏は少し考え込んでから「皺についてはどうでしょうか?」とお尋ねになった! それから「人の顔を見て金持ちか貧乏か分かるものでしょうか?」とも尋ねられた。
あんまり馬鹿げているので、私は笑いだしてしまった。
「予言者ではありませんから、私は本で読んだことしか知りません」


母が四時過ぎに帰り、祈祷会をした。夕食後、カローザス夫人のところに出かけようとした時、ペシャイン・スミス夫妻が来られたので、母は私たちで行くように云った。
ローザス家を見つけて入って行くと、初めは使用人一人しか出て来なかったが、やがて渡辺氏が現れた。
先日お尋ねした時に夫人は眠っていらっしゃたので、お目覚めまで渡辺氏が相手をして下さったのだ。だから今日家に上がる前に「今日もお休みですか?」と尋ねたら、渡辺氏は笑いこけて、やっと息をついでから「いいえ!」と答えた。
渡辺氏は顔立ちの綺麗な、美男子といえる青年だ。大きな楽しげな黒い目をしていて、とても気持ちよく笑うサムライだ。素敵な絹の着物を着て、懐中時計の重い金鎖をつけていると、とても引き立って見える。笑ったり、感じの良い冗談を云ったりしながら、夫人の部屋に案内して下さった。
それから渡辺氏は出て行き、オルガンで何やら「音」をたて始めた。参考までに私は夫人に尋ねてみた。
「あれはお嬢様のどなたかですか?」
「いいえ、とんでもない! 娘達はもっと上手ですよ!」
それからカローザス夫人は、渡辺氏と家族のみんなで、私たちに綽名をつけていると仰った。私がうちに来る若い男の人たちと富田夫人を教会に連れて行くので、みんな私の家族のことを「教会に来る人々」と呼んでいるそうだ。
日本人の礼拝に出席する外国人は私たちだけだからである。夫人によれば、私たちは教会に行くので、日本人の間で評判いいとのこと。
この国ではあまり遅くで歩きたくないので、その後すぐお暇した。渡辺氏はオルガンを弾いていて見つかり、慌てて飛び上がった。帰宅するとスミス夫人はまだうちにいらっしゃった。