Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

クララの明治日記 超訳版第17回−4

1876年7月4日 独立百年記念日 火曜日 
今日は日付などいらない。「四日」と書くだけで十分である!
この栄光の朝は、輝かしい陽の光にあふれた天候に恵まれて当然だ……そんな私の想いは、暑くてじめじめした日本独特の気候に虚しく霧散してしまった。
朝のうちに打ち上げられる予定の、我らアメリカ人の若々しい望みを象徴する爆竹、癇癪玉、打ち上げ花火、筒型花火、爆弾花火、回転花火、その他諸々の花火は土砂降りの雨に潰されてしまった。これは文字通り私たちの愛国心に「水を差すもの」だった。
今日が「一八七六年七月四日」だということを知らせる鐘も、礼砲も、無害な小さな爆竹すら鳴らなかった。
去年太平洋を渡っていた時は、我が同胞がこの日を祝って沸き返り「四日はいつも晴れる」というジンクス通りの好天に恵まれたというのに。私たち家族は浮かぬ顔をして向き合って坐り、独立記念日が来たということを日本に知らせるように、何処かでささやかな礼砲でもいいから鳴らないかと一生懸命祈った。
それでも私たちは上野での祝賀会の招待状を貰っていたから、それがせめてもの慰めだった。
着替えをして家を出たのが四時。四時にはきちんと席に着くことと聞いていたので、全速力で、何度かぬかるみにはまり込みになりながらも人力車を上野へと走らせた。だけど、そこに着いてみると、まだ十分に時間があった。
白いキッドの手袋をはめ青い絹の服を着た私たちを、若い見知らぬアメリカ人たちが正面玄関に整列して迎えてくれた。
恐らく五十人からいる紳士淑女のうち、少ないのは淑女の方だった。高い役職の日本人が三、四人いたのだけれど、燕尾服と真っ白な麻のワイシャツを着た紳士風の給仕とちょっと見分けが付かなかった。
ビンガム公使は出席されなかったが、ビンガム氏の令嬢とワッソン氏、それから神奈川県の総領事ヴァン・ビューレン将軍、陽気で活発で美人の若いワイズ夫人、初代大統領の子孫であるミス・ワシントン、スミス夫妻、パーソン夫妻、ヴィーダー氏、スコット氏、ウィルソン氏、パチェルダー氏と令息、ヴァーベック夫妻とその子女のウィリイ、エマ、ジェシー・フェントン、その他にも大勢いたけれど、皆日本で最高のアメリカ人ばかりだ。


輪になって坐ってしばらく話をしていると、夕食の用意ができたと告げられた。食事は正餐ではなく、コールドハムなどの軽食だった。それはまさに「豪華な軽食」だった。
楽しい楽隊、海軍軍楽隊が「コロンビア」や「海の島」のような愛国的な曲を奏でた。
ヴァーベック家のエマとウィリイ、ジョージ・バチェルダーとジェシー・フェントンと私は、外の綺麗な小さい円卓を囲んでとても楽しく過ごし、アイスクリームを沢山頂き、よく笑った。ジョージ・バチェルダーは面白い少年で、ウィリイ・ヴァーベックは物語の本に出てくるような正直で信頼できる少年である。
「日本の天皇に乾杯!」「合衆国大統領に乾杯!」「陸軍と海軍に乾杯!」「今日のよき日に乾杯!」「ジョージ・ワシントンに乾杯!」「ご婦人方に乾杯!」
その他、様々なものに敬意を表して乾杯が行われた。
ヴァン・ビューレン総領事は、活気に溢れた素晴らしい挨拶の言葉を述べ、それからスミス氏が短い演説をしている時、楽隊が「朝まで戻るまい」を演奏し始めて、スミス氏をまごつかせた。楽隊はジェシーの弟子なので、日本人のように日本語を喋るジェシーは、楽隊に演奏をやめるように言い続けなければならなかった。ジェシーは十三歳なのに年よりずっと大きく見える。
食後、部屋はダンスのために片付けられ、楽隊が「ランサーズ」を奏し始めて、みんなワルツを踊った。人が踊っているのを見るのは楽しい――優雅な動きと音楽は実に素晴らしい。私も踊れたらいいのにとつくづく思った。
それから花火が打ち上げられ、霧は濃かったけれど、よく見えた。最初は打ち上げ花火と円筒花火で、その次に非常に大きな花火が上げられた。
ニュージャージー州を象った花火の一つがなかなか燃えなかったけれど、火がついたら他のより、ゆっくりと着実に燃え広がり、遂には次の花火に場所を譲るために全部が地面に落ちた。
「OH! あんなことが本当に起こったらすべて終わりだ!」
叫んだ人は勿論冗談のつもりなのだろうけれど、私はもっと深刻に感じられた。我が国を象った物が落ちていったように、もし偉大なる我が共和国が地に落ちるようなことが万一あったら、そして誇り高き国旗が塵に塗れて引きずられるようなことがあったらどうしよう? ああ、主よ、そんなことが決して起こりませんように。
最後は透かし絵で、一八七六年七月四日百年祭の文字と、交差したアメリカと日本の旗が浮かび出た。アメリカ人全員の間に歓喜の声が湧き起こり、外にいる日本人の大群衆がそれに和した。
アメリカ、万歳! アメリカ、万歳! アメリカ、万歳!」
更にアメリカ人の万歳はひときわ高く上がり、たっぷり二分間は続いた。それから、婦人たちが何人か「星条旗よ永遠なれ」を歌い始めると、皆熱心に加わった。
ポーチから花火を見ていた軍楽隊の連中も歌い出し、自発的に自分の楽器に戻ってその旋律を奏し始め、楽隊の音楽と声が空に大きく響いた。
行事は十時に終わり、お土産の箱と小さな旗を持って家路についた。大喜びで、私たちの独立記念日は成功だったと断言しながら、コロンビアよ、幸ある国!