Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第17回−5

1876年7月5日 水曜日
独立百年を祝って、学校の人たちに軽食を出した。
何よりもまず大雨がこの日を祝ってくれたが(勿論これは皮肉だ)、私は果物と花を買いに出た。大きな旗を持ってきて、それと日本の旗とで食堂を飾ったら、とても綺麗になった。ケーキやキャンディやその他色々のものは精養軒に注文した。
一時に少年達が椅子を持って入室し、借りてきた猫のように、真面目に、厳かに、きちんと坐った。ジョージ・パチェルダーやウィリイ・ヴァーベックもいて、みんなケーキ、サンドイッチ、コーヒー、レモネード、果物をがつがつと平らげた! 彼らが帰った後、カローザス夫人が来られて祈祷会をした。
これら一通りのことが済んだ夕方の五時過ぎのこと。
さて、夕食まで何をしようかと思っていると、玄関の呼び鈴が鳴った。誰だろう? と首を傾げながら応対に出てみると、そこには思いがけない人がいた。
ごきげんよう、クララ!」
丸顔で、日本人にしては大きな悪戯っぽい黒い目をした美少女。我が家の恩人である勝提督の三女で、私と同い年のお逸だ。同じ美人でも、おやおさんとは受ける印象が全然違う。おやおさんが慎ましい月の美しさなら、お逸は輝く太陽のそれだ。
何か御用でも? お逸は母に英語を習っている。てっきり母に用事があるのかとそう声を掛けようとする前に。
「いま、暇? だったら一緒に散歩に行かない?」
「えっ? えっ? えっ?」
有無を云わさぬまま、私は外に連れ出され……気付いたら築地の海軍操練場の構内にいた。
「おーい、クララ! 蟹、取れたよ!」
どうして私は夕暮れの海岸で蟹捕りになんて勤しんでいるんだろう? 何度首を捻って考えても分からない。
だけど、不快さは全然感じない。むしろ、逆だ。私は日本語がまだ殆ど分からないし、お逸も英語が十分に分かるわけじゃない。十分なコミュニケーションなんて取り得べくもない。それでも、言葉を交わさなくとも彼女と一緒にいるだけで心が浮き立ってくるのだ。
お逸は九時まで家にいたけれど、とても楽しい一時だった。
夕食後、私はお逸と一緒に縁側に出て、月を見上げていた。とても綺麗な月。
と、突然、隣にいたお逸がわたしの肩に腕を回してきて、一言だけ云った。
「あなた、とても好きよ」
本当に美人で、活発な人である。