Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第18回−1

1876年7月14日 金曜日
今日、小野氏の泊まっている旅館に招待されたのだけれど、真夏の酷暑を避けるため、夕方の四時になってから出かけることにした。目的地は比較的近くの蛎殻町で、一行は母、父、アディ、富田夫人と私だった。
見つけるのに少し苦労したのだけれど、無事に辿り着くと、小野氏と英語のとても上手な二、三人の若いサムライが歓迎してくれた。
お土産として私が作ったケーキと庭で摘んだ綺麗な花を差し出すと、日本人はケーキに大喜び。
「これはお嬢さんが作られたのですか?」
私が頷くと「ナルホド。お上手ですね!」とお世辞なのだろうけれど、人好きのする笑顔で答えてくれた。若いサムライたちは段々私に興味を持ちだしたようで「お嬢さんは何歳ですか?」とまで聞いてきた! 話しているうちに、この青年たちは開成学校の学生で、ヴィーダー氏に教わっていることが分かった。
招待された旅館は大きな茶屋も兼ねていて、以前はある大名の邸のものであった庭園の真ん中に建てられていた。堂々たる古木や、蔦や池や小川など、古い時代を物語るものが沢山あった。
私たちは二階の部屋に案内された。一方が端から端まで低い窓になっていて、その窓敷居は他の人たちのように床に坐ることの出来ない父の腰掛けに丁度都合がよかった。
部屋の壁には、有名な人、王様、貴族、僧侶、教師、お城、庭園、都会などの絵が沢山掛かっていて、各々謂われがあるものらしいのだけれど、それを見せて貰っているうちに正直ちょっと飽きてきた。説明文がついていたらいいのに。
それから夕食をご馳走になったけれど、勿論和食で、その後も絵を見たり話をしたりした。
間もなく一人の少女が琴、つまり日本のハープを持って入って来て弾き始めた。私たちは皆床にぺたんと坐っていたけれど、このように日本風に坐っている私たちの様子を本国の友達が見たら、さぞ奇妙に思うことだろう。
少女はとても上手に弾いてから、歌を歌い始めたが、日本の歌だけは勘弁して貰いたい! 少女の歌は、時には金切り声や叫び声になり、また口籠もったり、ひどく鼻にかかったりした。
しかし、と私は思い直す。ひょっとしたら……私たちの歌も日本人には変に聞こえるのではないのだろうか? 何故かというと、日本人の歌は単調であって、悲しげに鼻にかかるのに対し、私たちの歌はまったく荒々しく、高い音になるとわめき声になるのだから。
教会で日本人が、Eフラットの音を出そうと額に皺を寄せて懸命に努力してもできなかったのを見たことがある。それでも今日の女の子の歌は、普段よく耳にする日本人のそれよりはいい音楽だったと思うし、母も同意見だった。八時に帰ったが、小野氏は明日隅田川の川開きに付き合って下さると約束なさった。