Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第18回−2

1876年7月15日 土曜日
「申し訳ありません、急用が出来て本日はどうしてもおつき合い出来ないことになってしまいました」
今日は隅田川の川開き。昨日、一緒に行って下さると約束した小野氏が、急遽そんなことを云ってきたので、本当にがっかりした。
「ウィリイさん、クララ。私たちと一緒に舟に乗らない?」
お逸にそう誘われたのだけれど、夜、特にそんな人込みの中で川に出るのには母が反対した。母の心配ももっともなので、残念ながら勝家の人たちと一緒に舟に乗ることは諦めざるを得なかった。
だけど、花火自体は見たかったので、母と私は人力車で花火見物に行くことにした。九時にセイキチを連れて出かけたのだけれど、花火大会が行われている両国橋に近づくにつれ、凄い人だかりとなり、結局私たちは降りて歩かざるを得なくなってしまった。それでも提灯や群衆や人力車の迷路を巧みに縫って案内するセイキチのお陰で、私たちがよく行く茶屋ナカムラに無事に到着することができた。
「申し訳ありませんが、本日は予約のお客様だけとなっております」
最初はそう断られたのだけれど、私たちが以前からよく訪れる外国人だと分かると、喜んで二階に案内してくれた。
そこには数人の人が坐っていて、だけど男性の半分は裸だった。私はそんな裸の人たちを見るのは御免だ。勿論腰巻きはしているのだけれど、肌を見るのは嫌い。それは男女を問わずにだ。女の裸はうんざりするし、男は野蛮な感じがしてしまう。
笑ったり、喋ったり、酒を飲んだりしている彼らのそばに坐らされた時、私は些か怖かった。しかし私たちは勇敢にもアメリカの旗を露台に吊して、その陰に坐ることにした。
隅田川は目の前にあり、上流下流一マイルの間に、不格好な運河用の舟から派手な小さなゴンドラまで、いろいろな種類の舟が無数に浮かび、さざなみに貝殻のように揺れていた。
どの舟にも晴れ着を着た人々が乗って、色を染め分けた綺麗な紙の提灯を持っていた。きっとお逸たち勝家の人たちを乗せた舟もあの中にあるのだろう。
目の前の幻想的な趣は、書き表すより想像して貰った方がいいだろう。何百万もの提灯が、眼の届く限り川を埋め尽くし、普段は穏やかな隅田川が輝く火の海のように見えた。赤、青、黄、白といった色が圧倒的に目立つ。
花火の数はあまり多くなく、豪華でもなかったけれど、人々の熱気は大変なものだった。打ち上げ花火が上がるたびに歓喜が湧き、頭上で砕けて美しい星になるとやみ、次の花火が上がるのを待つのだ。
土手や橋には大勢の人がいて、茶屋もまさに「すし詰め」状態。それでも、明るく火の灯った家々、照らされた川、華やかな花火、消えないように高く掲げた提灯の波――本当に綺麗な光景だった。
だけど、その美しい光景も十時頃になって降り出した雨によって突如終わりを告げた。群衆は整然と散っていく。通り過ぎていくその人間の流れを見ながら、母と私は悲しげに、この人たちの精神的に希望のない状態について語り合った。
主よ、魂の救済も知らぬまま、日々を漫然と楽しみと共に過ごす彼らの魂を導きたまえ。