Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第18回−3

1876年7月25日 火曜日
いよいよ母たちが日光旅行に行く日となった。これで母たちは「結構」と云う資格を得ることになるのだ。
今朝は本当に大騒ぎだった。昨夜母と同行するトルー夫人とアニーが来て泊まっていき、今朝は四時起き。十人の外国人と荷物を運ぶために十台の人力車が待ち受け、母はヤスの引く我が家の人力車で出かけることになった。
昨日、母はすっかり弱っていたから、今朝出発できないのではないかと思ったのだけれど、一晩ぐっすり眠ったお陰で元気になり、朝から散々どたばたした挙げ句、アディとウィリイも伴い出発して行った。
みんなの姿が見えなくなると、少しだけ郷愁のような感情に襲われた。けれど、勇気を出して家に入ると、一つ気合いを入れることにした。
「母がいない以上、さて私はどうしたらいいだろう?」
まずは富田夫人とヒロと一緒にお祈りをし、朝食を済ましててから、仕事に取りかかることにした。今日はウメの娘が母の身の回りを世話すべく同行したテイの代わりに来ている。十五歳六ヶ月で、おサクという。
まずは片付けだ。教室用の長い部屋も、中の物をみんな持ち出し、箱や引き出しも完全に綺麗にし、客間を掃いて埃を拭き取り、花瓶の花を全部取り替えた。気合いを入れすぎたため八時前には何もかも整頓し終えてしまった。
一休みしていると、高木氏が「母からの贈り物です」と着物を持って来て下さった。次に、ペンをとってケイツ・ハミルトンに手紙の返事を書いていると、深沢氏というアメリカ帰りの新しい友達がみえて、父と長話を始めた。話に加わった富田夫人は私たちの苦労話をなさった。
深沢氏が帰られた後、富田夫人とお喋りをしていると、カローザス夫人から「病気だから来て欲しい」との伝言が。
出向くと夫人は持病の神経痛が出たようで、寝ていらっしゃった。体中が痛いらしく、夫のカローザス氏もどうしたらいいかよく分からない始末。私は夫人の頭に包帯を巻いてあげて、お話をして、手紙や書類を読んであげてから、お食事の世話をすることにした。
精の付く物を、と鶏肉のスープを召し上がったのだけれど、すぐに皿を置いてしまわれた。料理人がキャベツを入れたので、鶏肉の味がすっかり奪われてしまっていたのだ。実際に鶏肉はとても小さくて鳩みたいだった。カローザス夫人はそれを手にとって笑いながら云われた。
「この鶏は一度だって鳴いたことはなかったでしょうね」
だけど、情けないことにこの時の私はお腹が空いて倒れそうで、そんなものでも美味しそうに見えてしまった。今日は朝食がとても早かったからだ。恥ずかしながら夫人からこの後、パンを少し分けて頂かなくてはならなかった。


午後の一時頃に帰宅することにしたのだけれど、おサクは私とずっと歩いて帰る羽目になった。何故かというと、お昼なので人力車の車夫は皆眠っていたからだ。起きている者もいるのだけれど、とても高い値段を要求してくる。しかも築地の周辺は何処も低地で木も生えておらず、木陰もないので歩くのはとても暑かった。
午後、富田夫人と私はベッドに横になって、長い間お喋りをした。それから読書をし、富田夫人と身体を洗いに行った。丁度その時、ウィリイから手紙が来たのだけれど、それは最初の宿場、千住から午前八時に出したもので、うちには午後三時に着いた。
手紙の内容は至ってシンプルだけど、同時に深刻な物でもあった。皆元気だけれど、母がお金を十分に持って出るのを忘れたというのだ。
「宛先も分からないですし、日光はとても広い所ですから、お金を送るとなくなってしまうかも知れません。ですから今すぐセイキチをやって、夜泊まる所まで追いつかせて手渡してはどうでしょうか?」
富田夫人はそう妥当な提案をされたのだけれど、何故か父はそれを渋った。
仕方がないので父の好きなようにさせることにして、私たちは外出した。人力車に乗って駿河台へ行き、少し探してからヴァーベック家に着いたが、エマは横浜へ行って留守だった。それからコクラン家を訪ねたら、皆芝居に出かけ、コクラン氏だけご在宅だったので、スージーの本をおいて家に帰った。
すると、まだ父がどうすべきかを悩んでいた。