Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第19回−2

1876年8月28日 月曜日
今日は弁天岩屋に行くことにした。お堂のある洞穴に着くためには、崖を上って反対側に下り、山の北側の岸に回らなければならない。
途中に幾つかお寺があった。そこに陳列してある骨董品を見てから、祈祷書やお守りや沢山の絵を買ったら、顔立ちの良いお坊さんが目を丸くしていた。徳川家の弓、上杉謙信の鎧と扇子と鐙、偉い殿様の描いた古い絵、昔の琴など色々の骨董品があったけれど、お寺の人たちにとっては、ノアの箱船のように古く神聖なものなのである。
私たちは茶店に坐って、港の美しい景色を眺めた。
果てしなく続く緑の丘の間に埋もれた、茶色の屋根の、絵のような小さな村々! 緑の丘の長く不揃いなうねりが海にぐっと張り出し、海には江の島のような明るい小さな島が無造作に点在しているのも非常に面白い。そして島にある繁った峡谷や、純粋に美しさの損なわれていない、ひっそりした散歩道はまったく蠱惑的である。
こんなによく繁った植物は今まで見たことがない! 道の両側に深緑の生き生きとした植物が並び、竹、棕櫚、松、花の咲いている天人花、蔦、野薔薇、野苺、それに無数の小さな植物が、全く野生のままの密林を作り上げていながらも、実に優美で、まるで手入れの行き届いた公園のようだ。


さて、弁財洞窟のことを書こう。道のりが長いし、遅くなると波が高くなって入口を塞いでしまい、早朝にしか入れないので、私たちは早く出発しなくてはならなかった。
岩場を這って、やっと洞窟の入口に着いた。入口の高さは百フィートぐらいで、幅はその半分ほどだった。
そこでしばらく涼んでから中に入った。巨大な大聖堂のような感じで、奥の端に弁財天の金色の社があったが、そこの祭壇にはカトリックの教会と同数くらいの物が備え付けてあり、奥に弁財天の像があった。弁財天は蓮の花の中で生まれたというのが伝説になっている。
お坊さんが松明に火をつけて、洞窟内を案内してくれたのだけれど、洞窟は調査しただけで百八十フィート、あとどれだけあるかは分からない。非常に天井の高い所があるかと思うと、屈んで通らなくてはならないところもあった。
あちこちに清水が流れ、曲がり角ごとに弁天様の像があって、ランプが前方を照らしていた。狭い通路が岩の中を網の目のように続き、ランプの明かりがちらちらして、洞窟内の薄暗がりは気味が悪かった。
洞窟の外れまで彷徨って行くと、もう一つお宮があったけれど、そこには錆びた鋼鉄の鏡しかなかった。この鏡は神道の象徴であるが、弁天様は仏教の神であると同時に神道の神でもあるのだ。
陽気で気だての良さそうな若いお坊さん三人と一緒に、午前中ずっとこの洞窟で過ごした。
お坊さんたちに昼食の缶詰のハムやジンジャーナッツを分けると、お返しにお茶とお水をご馳走してくれた。一人は英語を習ったことがあるという。
江の島で、この岩場での楽しい時を過ごしたことはない。
裸の悪戯小僧達が、岩の間で砕けて泡立つ波の中に飛び込み、明るい珊瑚色のものなど色々な種類の海草を取って来た。私たちが、一セントの十分の一ぐらいにあたる銅貨に和紙の切れ端を結びつけて、一つずつ海に投げ入れると、その子供たちは飛び込んで拾い上げ、不平のないようにお金を等分に分けた。