Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第20回−2

1876年9月25日 月曜日
美しい朝で一日が始まる。ここのところ、いい天気が続いている。
「申し訳ありませんけれど、おやお様はひどい風邪を引かれたので休ませて頂きます」
おすみがそう云って帰っていくのと入れ違いに、お逸がやって来た。
午前中に二人で築地へお使いに行った。公使館へ行ってビンガム夫人を訪ねたのだ。
「お父様の勝提督をよく存じ上げていますよ」
私の服を着たお逸の素性を聞いて驚いた夫人だったけれど、そう仰ってとても親切にして下さった。私たちにそれぞれゼラニウムを一本ずつ下さり「いつでもおいでなさい。そして二人とも仲良くなさい」と云われた。
きっと夫人は私を好いて下さるのだ。私はいつもとても大事にして頂いている――だからといって、好かれていると決めることは出来ないけれども。
しかし、お嬢様方が結婚したりアメリカにいたりして、そばにおられないからきっと寂しいのだろう。そしてよく知っている少女は私だけだから、私は幸運なのだ。
午後からは祈祷会をしたけれど、お逸以外は家の人だった。
母は昨日私のしたことをとても不快に思っているので、なんとも気まずかった。やがてシンプソン夫人が来られ、ミス・ヤングマンと一緒に住んでいる若いミス・ファニー・ギューリックも来られたが、すぐお帰りになった。
夕方の六時過ぎに、ウィリイと私は加賀屋敷に出かけた。小野氏を明日の夕食に招待しようと思って、途中で小野氏のいる茶屋に寄ってみたところ、英語を話す青年が出て来た。
「小野氏が引っ越された新居に案内致しましょう」
そこから二街区ばかり離れた蠣殻町の新しい家の前まで行ったのだけれど、雨戸が閉まっていた。青年が戸を叩くと、小野氏は今入浴中だから入って待つようにと云われたけれど、私たちは外で待つことにした。
「小野さんは結婚したんじゃないかしら?」
私が冗談めかしに云うと、ウィリイはやはりいたずら気から青年に何気なく尋ねてみた。
「小野さんの奥さんはご在宅ですか」と。
だけどその単純な人から返ってきたのは、私たちを驚かせる答えだった。
「ええ、いらっしゃいます。ここは奥様の家です!」
こうして、我らが友小野氏が結婚したということが分かった。


その後。
こんな遅い時間に訪問するのは恥ずかしかったのどけれど、加賀屋敷に着くと、まずマッカーティー先生のお宅へ行った。
先生ご夫妻は養女の清国のお嬢さんと、感じのよい綺麗な客間に坐っていらっしゃり、お二人とも心から歓迎して下さったので、私たちはまるで、ある可愛い小さな家に突然飛び込んで来たかのような気がした。
先生は東洋暮らしが長い。なんと半世紀にも及ぶのだ。そこで先日我が家を訪れ、長居をした迷惑な客人――矢田部氏のことだ――について話していたら、先生が長居をする客の撃退法を教えて下さった。
「私は、もてなす種がなくなって、家にいられるのがもう我慢出来なくなると、お客を庭へ連れ出すのです。歩き回って門の所へ来たら、手を慇懃に差し出して『では、またおいでをお待ちしています』と云うのです」
先生は東洋人から巧妙なやり方を学んだのだという。そして賢者らしく首を振りながら仰った。
「ええ、東洋に半世紀近くも無駄にいたのではありませんよ、絶対にね!」
この素晴らしい訪問の次に、隣のミス・ワシントンの家へ行ったけれど、ここでちょっとした滑稽で面白い間違いが起きた。
折悪しくというべきか、ミス・ワシントンのところでは、ニンポーから来た宣教師二人を待っておられたのだ。つまりその家のご主人であるサイル氏――ミス・ワシントンの継父に当たる方だ――は、私たちが違う人であることをご存じなかったのである。
そもそもの誤解の元を作ったのはウィリイの失敗だった。兄は何も書いていない名刺を持ってきてしまったので、玄関にいた使用人に名前だけを告げたのだ。
「遠路遙々よくいらっしゃいました」
こちらの有無を云わさぬ熱烈さで、サイル氏は兄の手を取った。そしてブンブンと手を振り回すようにして「バランタインさん、今晩は」と云われた。
続いて奥様が飛んで出ていらっしゃると、私を迎えて同じように仰ったので、私たちは吃驚仰天すると同時にその場で固まってしまった。
「あなた方のニンポーでの仕事ぶりは伺っておりますよ」
どんどん進んでいく話。硬直してしまって唇の端さえ動かせない私たち。
そんな奇妙な状況を打ち破って下さったのは、やっぱり。
「あら、ホイットニーさん。ごきげんよう
二十一歳だというのに、見た目もなさることも十七歳くらいの感じにしか見えないミス・ワンシトンが現れて、すぐに事は解決し、大笑いとなった。
いつも嬉しそうにされているミス・ワシントンだけれど、今夜は特に嬉しそう。何故かと伺うと皇后様の学校である女子師範学校で教鞭を執ることになったそうだ。
とても楽しい訪問を終えて、十時に帰宅した。途中で新しい漢字をいくつかウィリイに教わった。ウィリイは、なんと大事ないい兄なのだろう!