Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第20回−5

1876年9月28日 木曜日
「クララ、貴女はもっと几帳面になりなさい」
母に朝から怒られて、私はふて腐れたまま台所に立っていた。今日はお逸がお姉さまの孝子を連れて来るので、パイを作ることにしていたのだ。
「あれ、クララ? 機嫌でも悪いの?」
一足先にやってきたお逸にあっさり看過されてしまったところを見ると、余程顔に出ていたらしい。とりあえず二人で富田夫人のいた部屋に行ったら、母がそこにいたので「……ケーキを見に行かないと」とその場から逃げ出した。
台所に着いた途端に、郵便屋さんがうちの郵便が一杯入った白い袋を二つ持ってきたので、私は驚喜して大分騒いでしまった。
お盆を下に置くと、郵便屋さんは新聞や小包や手紙の包みを次々と引っ張り出した。郵便屋さんが出し終わっても、私はもっとあるかとまだお盆を差し出していたので、彼はとても面白がって、出て行く時に、首を振りながら「モウナイ! タクサン!」と云った。
二階に駆け上がりこの獲物を母に見せると、母も驚くほどご機嫌がよくなった。
母には八通、私には四通手紙が来た。ウィリイにも同数、父には一通、アディには二通、その他、あらゆる種類の新聞がどっさり。
母のところへ来たものは、殆ど仕上がった灰色の駱駝の毛のドレス、肝臓の丸薬、重曹、それにピンと針だった。私はブリキ缶に入ったチョコレートクリームを貰った。本当に素晴らしい。私に来た手紙はドーラとリビーおばさんからで、ドーラとベッシーの写真が入っていた。それからミス・マギーから<完璧な手紙>、オッティから<個性ある手紙>、それにベル・ティクナーからも。ああ、嬉しいのなんのって!
「なんだかそのまま踊り出しそうね」呆れながらお逸にそう云われる始末。


私の昂奮がようやく収まった頃、お姉様は赤ちゃんと小さい坊ちゃんを連れていらした。
わたしは今日もお逸と着物を取り替えたりして楽しく過ごした。会うごとにお逸のことが好きになる。十六歳の少女としてはこの上なく感じがよく、またしとやかである。雄々しいサムライが誰も、お逸と結婚しに現れることのないよう望むのみだ。ああ、アメリカにお持ち帰りしたい♪
疋田夫人の赤ちゃんも素晴らしく可愛い。坊ちゃんは三歳だけれど小さな大人である。
「あっ!」
私たちが目を離した瞬間、坊ちゃんはベットから転げ落ちてしまった。
慌てて駆け寄って怪我の確認をしようとしたけれど、この小さなスパルタ人は唇をかみ、涙が抑えきれなくなると、袖に顔を隠してそっと泣いた。
叔母さんは坊ちゃんを見て笑いながら云った。
「この子は赤ちゃんのお兄さんなのだから、変な模範を示してはいけないのですよ」
この国では、泣くことはとても子供っぽいことだと思われていて、男の子は克己心を持って何事にも耐えるように教育されているのだ。