Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第22回−1

1876年10月26日 木曜日
昼食後、人力車に乗って、富田家に行った。富田夫人は三田四丁目二十六番地の小さな日本の家に住んでおられる。ご在宅で、とてもやさしく迎えて下さった。
「ごめんくださいませ」
突然の来客。私とアディは顔を見合わせると、慌てて奥の部屋に駆け込んだ。
どうやらお客様は男性と年若い女性らしい。襖越しに聞こえてくる富田夫人との会話(当然日本語だ)の断片から、男性の方は以前お宅を訪問したことがある松本氏だと分かった。
「……でも、どんなお顔をされていたかしら?」
私は好奇心に負け、襖の間からこっそりと覗き見ることにした……のだけれど。
「!」
松本氏は丁度、開けた襖の真正面に坐っていらしたので、まともに目が合ってしまった!
慌てて逃げ出したのだけれど、やがて富田夫人が私を連れに来て、膝をついて懇願したにもかかわらず客間に引きずり込まれてしまった。
「ええ、どなたか外国の方がいらっしゃることは気付いていましたよ。ですから、絶えず戸の方ばかりを見続けて、あの外国人は誰かなと思っていたのですよ」
笑って仰る松本氏は、以前アメリカに留学された経験があるだけあって、非常に人当たりがいい上に大変陽気な方だ。矢田部氏のお友達だというのも頷ける。
「ご紹介しましょう。こちらのお嬢さんは私が後見人になっている目加田家のお嬢様です」
目加田という変わった苗字のお嬢様を紹介されたのだけれど、私は真正面から顔を合わせるのが恥ずかしくて、松本氏が魅惑されているらしい彼女の美しさを鑑賞し損なってしまった。
「今度上野の奥へ、今盛りの菊を見に連れて行ってあげましょう」
そう約束して下さった松本氏は「またうちにも必ず来て下さい」と云い、隣のお嬢様に視線をやってこう付け加えることも忘れなかった。
「目加田さんに洋服を着せて、お宅へきっと連れて行きますから」