Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第23回−1

1876年11月21日 火曜日
長いことおなざりにしていた日記よ、おいで! 忘れていたように見えるかもしれないけれど、決してお前を忘れていたわけではないのだ。
天気に恵まれた今日の午後 日本の婦人と少女たち一行のおもてなしとゲームを終え、私は疲れ果てて今ここに坐っている。
昨日のことになる。お逸と私が大鳥夫人を午餐にお招きしに行ったのは。
ということで、十一時頃に大鳥夫人は一歳の赤ちゃんと、四歳の坊ちゃんを連れておいでになった。
今日は勝夫人とお逸、おやおさんとおすみも一緒だった。二人の生徒はいつものように来たのだけれど、美しい着物を着ていた。
おやおさんは、柔らかい色合いの縮緬の着物に、扇や木などの模様が全体についた素晴らしい深紅の帯を締め、襟元に襞をとった柔らかい桃色の襦袢を身につけて、金と鼈甲の簪を二本挿していた。お逸も綺麗なのだけれど、流石に「本物のお姫様」であるおやおさんの威光には叶わない。おすみは主のそれよりは質素で、黄色い着物に紫の羽織を着て、綺麗な簪を一本つけていた。
最初は気まずかったけれど、だんだんみんな打ち解けてきた。しかし根本的な問題として……
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
日本の婦人たちは私たちと違って、相手を楽しませようという努力をしない。放っておくと、ひたすら沈黙が場を覆うばかり。
勝夫人は自宅では陽気な方なのだけれど、余所の家ではやはり「政府高官の妻」という立場を崩すわけにはいかないらしく、その結果必然としてお逸も今日ばかりはいつもの快活さを発揮するわけにはいかず。
大鳥夫人は身体がお弱いらしく、自分から積極的にコミュニケーションを取られようとしない。おやおさんは天然だし、おすみは最初からおやおさんしか見えていない。
ただこんな沈黙も彼女たちにとっては至って普通なことらしく(内心は分からないけれど)ごく平然としているのだけれど、間と身が持たないのは私の方だ。
「ちょっとお手洗いに」
私はその場から逃げ出して近所のシンプソン夫人のところに助けを請いに行かざるを得なかった。
「残念、先約があるの」
話題が豊富なシンプソン夫人ならば話題の糸口を、と思ったのに、その目論みもあっさり霧散してしまった。
「ロンドンの霧は本当に黒いカーテンのようでね、市中に立ち込めると太陽の出ている日でも日中真っ暗になるのですよ。それに比べると本当に日本の天候は快適ですわね」
お茶を一杯だけ頂きながら、そんな話だけしてうちに帰ると、私は友人たちのもてなしに取りかかった。
それで冒頭にあるように、なんとか皆でゲームをすることで場を持たせることには成功したのだけれど、大鳥家の赤ちゃんは始末に負えない子で、小さな暴君であることが分かった。
ちなみに。本日は来ていないけれど、大鳥家の二人のお嬢さん、おひなさんとおゆきさんは、二年前に洗礼を受けたそうだ。
うちの使用人のテイは教会の牧師の所へ行って「自分も洗礼例を受けさせて欲しい」と頼んだのだそうだけれど、牧師はテイを知らないので、当然のことながら断られてしまった。それでも私はテイがキリスト教に関心を持っていることがとても嬉しい。ウメがいうには、テイはセイキチやウメに毎晩聖書を読んで聞かせるそうだ。
もう一つ面白いことがある。
とうとう私は日本語の先生につくことになったのだ! 軍人でもある佐々木氏が、交換授業を提案なさったのである。佐々木氏は申し分のない紳士で、上手に英語を話される。陸軍省の役人であるサムライで、本当に好ましい方だ。修辞学と手紙の書き方と作文を習いたがっていらっしゃる。私はカネヨシに教えたときに失敗しているから、自信は殆どないけれど、全力を尽くすつもりだ。
徳川家の継承者のお守り役、滝村鶴雄氏が昨晩夕方にみえた。滝村氏はこの家にあるものがみんな気に入り、出された食べ物は全部とてもおいしいといって召し上がった。