Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第23回−4

1876年11月25日 土曜日
今日は横浜に行くのかと半分期待していたのだけれど、取り止めとなってしまった。挙げ句、ドーナツ作りを強制されたのだからたまらない。
朝の労働後、母と私はマッカーティー夫人を訪問した。夫人は在宅で、養女である清国の少女ユウメイもいた。
「ユウメイ、貴女の部屋にクララさんを案内しておあげなさい」
母を客間に案内した夫人がそう仰ると、清国人の養女であるユウメイは無言でコクンと頷いた。夫人によると、ユウメイはまだ十三歳なのだという。私より三つも年下なのに、私よりずっと大人びて見える。ユウメイは清国風に、長いゆったりしたスボンの上に肩をボタンで留めたブラウスを着ていた。無言で前を行くユウメイの背中を追っているうちに、なんだかこちらが気圧されてしまいそうになる。
「……どうぞ。お入りになって」
ユウメイが玄関先での挨拶以来、はじめて口をきいた。部屋に入るだけのことなのに理由もなく身構えてしまったけれど、意外と部屋の内装はごく普通の少女のそれだった。
と、ベットの上に別のブラウスが並べてあるのが目に入った。
ユウメイに伺うように視線をやると、またコクンと頷いたので私はそれを取り上げてみた。
「うわーきれい!」
思わず感嘆の声を上げてしまった。今ユウメイが着ているものよりも、デザインはずっと洗練されているブラウス。あ、でも、これはちょっと……
「お母様には流石にこれでは短すぎますわ、とちゃんと云いましたのよ!」
初めて感情を露わにしたユウメイの言葉に、私はようやく緊張がほぐれた。思わず笑みがこぼれる。
「いつもはこんな破廉恥な服、着たりはしませんのよ。いつもは膝の下までくるのをちゃんと着ているのですからね!」
アメリカに二年いたユウメイは英語をわたしと同じくらい上手に話す。……うーん、それも我が事ながら、どうかと思うのだけれど。
「わたくし、将来は先生になるつもりですの」
ようやく互いにうち解けて話せるようになると、ユウメイはきっぱりと云った。
私はちょっと吃驚して、うっかり「え、あなたが!」と云ってしまった。
「あら、どうして先生になっちゃいけないの? 他の人だってなるでしょう」
ユウメイは少し気分を害した口調で云ったので、私ははっとして言い直しをした。
「わたくし、ヨーロッパに行って教育を終え、十八歳までには自立したいと思っておりますの!」
こういう独立心に富んだ話し方は清国の女性にはまったく新しいことだ。なんて面白いんだろう! 本当にいろいろの人がいるものだ。
私はこの清国の少女がとても気に入った。アクセントまでアメリカ少女そっくりだった。お兄様がサンフランシスコ領事館にいて、ご両親は亡くなったそうだが、お父様はきっとクリスチャンでいらっしゃったと思う。私は清国に行ったことがないから、勿論よく分からないが、裕福な家庭の出ではないらしい。ユウメイの精神には敬服する。
この後、マッカーティー夫人が来られて、自然美を誇る加賀屋敷のお庭と池を案内して下さった。