Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第24回−4

1876年12月16日 土曜日
さて今日は、かなり楽しい一日だった。丁度よい時間に起き、お菓子を焼くのを早めにに済ませた。
祈祷会で、小泉氏が「ヒポクリット(偽善者)」を「ピポクリット」と発音したので、母が訂正したが、小泉氏はその甘ったるい発音を変えようとしなかった。
こんなことを「我が日記」のような重大な<?>ノートに書くのはあまりにもくだらないことかも知れない。しかし、その時はおかしくてたまらなかったのだ!
十二時に、富田夫人が見えて、私が招待されていた高木氏のお宅について行って下さった。
途中、大丸に寄って絹地を見た。この店はいわば東京のスチュワーツ店である。
いろいろな階層の人々が大勢、買い物をしていた。
店員とボーイたちは絶えずお喋りをして、大声で互いに怒鳴ったり叫んだりしていた。
この建物で呼び合う声は陰気な静かな噎び泣きのような音で、一ダースぐらいの声が響き合って、様々な雑音が間に混じると、とても面白い効果が出た。
お客が来ると、店員は絶望的な叫びや、悪魔に取り憑かれたような喚きを途中で止めて、品物の値段を云ったり、お客のどんな質問にも丁寧に答えるのだった。
一隅で紳士と淑女が絹地を買っていたが、夫人が絹を選んでいる間、紳士は煙草を吸っていた。
その隣の商人は、値段を下げろと言い争いをしていた。その人はしばらく議論してから、怒って算盤を投げ出し、靴を履いて「さよなら」も云わず、慇懃な店員に応えもせず出て行ったが、店員は出入口まで送り、怒った客が去ると、肩を竦めて穏やかに微笑んだ。
さて、そんなところで私の横の母と娘の姿を見てみよう。
買っている着物の質や種類から察すると、娘はもうじき花嫁になるらしい。だけど、逆説的にまだ彼女は“自由の身”なわけで。
「この反物の色とお嬢様の薔薇色の頬。実にお似合いでいらっしゃる。こんな美しいお嬢様と結婚できる男性はなんと果報者なのでしょうね。ああ、もっと貴女ともっと早くお会いすることが出来ていれば」
「そ、そんなことないですよー」
そう否定しつつも、美男の若い店員に褒め称えられた娘さんは、とろんと惚けたような眼をしていた。
ああ、なんということだろう! そんなことはしてはいけない。お嬢さん、あなたを熱愛するカンペイが見たらどうするの? 
実際に老婦人は浮かれた娘を窘めるような目つきをしていたのだけれど、こんな状態の若い娘に、そんな視線だけの注意な無意味なことだ。


とりあえず、大丸の話はこのくらいにしよう。もう四時で、待たせてはいけないから、高木氏のところへ急がなくてはならなかった。
私たちは「高木さん」を探して、浅草中人力車を走らせた。
「高木さん家か? ああ、知っているよ。これから行くのかい?」
高木家を何処にあるかを聞かれた人は皆知っていて教えて下さる。けれど、実際にそこに行ってみると、戻らなければならなかったのだ。
何度も何度も高木氏の家の前を通り過ぎてから、高木氏自身が出迎えて出ていらっしゃったので、やっと分かった。
中に入り、二階へ上がって、結婚のお祝いと家庭用品を全部見させて頂き、持って来た贈り物を出して挨拶を述べた。
高木夫人を紹介して頂いたが、活発で小柄な横浜の少女で、入念に紅白粉を塗っていたが、少しもはにかんだところがなかった。
高木氏は殿様のような態度で、奥様を使い立てていた。日本の花嫁であるということはなんと楽しいことなのだろう! うふふ! 
素晴らしい夕食をご馳走になったのだけれど、きのこの吸い物を飲んだらむかむかした。ウィリイも今夜は気分が悪いと云いながら帰った。
もう無理にきのこを食べさせられることがありませんように。