Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第26回−2

1877年1月24日 水曜日
今日はとても素晴らしい日だった。
二時に母とお逸と私は家を出て、ヤマト屋へ本と毛糸を買いに行った。
買い物を済ますと私は駿河台へ、お逸は家に帰り、母は幾つか訪問するところがあって築地へ行った。
まずエマの家に立ち寄ったら、エマは<洋服を着た>小さな日本人の少女に教えていた。
けれど口実を設けて授業をやめ、外出の用意をして私と一緒にヴィーダー家のジェニーとガシーに会いに行くことにしたて。
「あら、クララさんではありませんか?」
玄関のところでばったりと出会ったのはマッカーティー夫人とユウメイ。
流石にこのまま出かけるのはどうかと思ったのだけれど「どうぞ、構わずに」と夫人が仰ったので、私たちはそのまま出かけることにした。
開成学校はすぐ見つかり、同じ敷地内にあるヴィーダー家には運良く二人ともいた。
少しお喋りをしてから、クローケーをしに外に出たのだけれど、皆ひっきりなしに喋っていたので、残念ながら、一時間以上やったのにゲームは終わらなかった。一人の番が済むと、みんなのお喋りが始まり、次は誰だか忘れてしまったからだ。
やがてヴィーダー夫人の所へフェントン夫人が訪ねて来られ、私たちは「母親と父親」遊びを始めた。
ジェニーが母親、私が父親になって、エマとガシーが悪い子供たちの役所。私たちは子供たちを大追跡して、開成学校の敷地や、ずっと昔軍隊が駐屯していた古い兵舎の間を駆け回った。
ジェニーと私は、形の上の子供たちを追いかけるのに疲れて、途中でやめてしまった。
二人とも互いに相手の、アメリカでの学校生活や親友のことに興味を持った。
ジェニーが「キャリー・ディアポーン」や「パーティ・ブライトン」のことをあんまり話すので、どちらも会ったことがないのに、よく知っている人たちのような気がしてきた。ジェニーは、六月になったら丈の長いドレスを着ることになっているけれど、同じ頃、アメリカの二人の友達も着るのだと云った。
熱心に話していたら、矢田部氏がこちらへぶらぶらと歩いてくるのが見えた。
「あの人に会いたくないから、この小屋に逃げ込みましょうよ!」
私はジェニーに云って、急いで走り出した。
当世風の服装をして、ボンネットを被り、長い金髪のお下げを後ろに靡かせて、古い虫喰いだらけの兵舎の間を私と一緒に駆けているジェニーはとても綺麗だった。
危険がすっかり去ると、私たちは這いだして、学校の方へ歩いて行った。
「入りましょうよ」
「ええ、いいわ」
ジェニーの提案に私は同意。その方向へ足を向け、角を曲がった途端だった。一体どんな嗅覚を備えているのか、一番出会いたくなかった人と鉢合わせしてしまった!
「おや、お嬢さん方、学校を見に行くのですか?」
喜色満面の矢田部氏の問いに、私は思い切り内心を露わに「……ええ」とだけ答える。
普通の人なら、私の声の調子だけで「拒絶」を示していると分かる筈だ。分かる筈なのだけれど。
「良かったら私がご案内しましょう。なにせ私はここの教授ですから」
「……………」
「……………」
ジェニーと私はしばらく相談したが、結局行くことにした。断っても着いてきそうだったからだ。
矢田部氏は、教室や、鉱物学と動物学の収集室、図書室、実験室を案内し、終わりに、アジア協会が会合を開いている部屋の窓の前を歩いた。
室内の紳士たちが吃驚して見上げたので、ジェニーはかんかんに怒った。
図書室に行った時もまた、大変当惑した。建物の中に学生がいるのを知らずに、かなり大声で笑ったり喋ったりしていたら、突然矢田部氏が。
「!」
一体全体、何を考えているのか、矢田部氏は図書館の戸をバッ!と開けたのだ。
見るとそこには二十人くらいの若い男の人たちが! 私たちはたじろいだけれど、彼らの丁寧なお辞儀に返礼をしないわけにはいかなかった。
私と手を繋いでいたジェニーは、なんとかこの苦行から逃れようと試みる。
「矢田部さん、会合に出ないといけないんじゃないんですか?」
そう云いながら、彼女は私の手をぎゅっと握った。
だけど、この程度の当てこすりなんて、矢田部氏に通用する筈もない。そのまま学校の外までずっとついて来て、ようやく解放されると思いきや、まだ未練がましそうにこう続けたのだ。
「お嬢さん方が迷子になるといけないですから、ここでお別れするのは本当に残念です」
丁度その時、救いの主であるガシーとエマが現れた。この機を逃さじとばかりに、私たちは大変無作法な態度でその場を逃げ出し、待たせておいた人力車に飛び乗った。
エマとガシーも後から追いつき、みんなで家に入ってみたら、アメリカから郵便が来たところだった。
ジェニーは、三百万通も期待していたのに、たった一通しか来なかったと云った。私には三、四通と、いいものが沢山入った大きな包みが来ていた。
そう、この日、重大なことを決めた。私たち少女は「若い婦人のアジア協会」を創立することにしたのだ。
今度の水曜日に、ううちで結成会を開くつもりだ。スージー以外の少女たちはみんなとても喜んでいるが、スージーだけは何処までも冷静にポツリと云った。
「……もし万一そんな会ができたら素敵でしょうね」