Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第29回−5

1877年4月5日 木曜日
マッカーティー先生がお帰りになった後、母と人力車で外出し、間もなく気が付いたら上野公園の近くまで来ていた。
それで中に入り、美しい公園内を歩き回って、記念碑から団子坂までくまなく探検した。
丈の高い木々やお寺や、その他、美しいものに囲まれた静かな緑の林の中は、なんと気持ちがよかったことだろう。
茂みと松の木々の間から、赤と金色の豪華な小寺院がちらちらと見える様はまったく美しかった。
角を曲がると突然。くすんだ黒色の高い五重塔がすっかり見えるところに出た。
五階建ての塔が空に軽やかに聳えていたが、周りの緑と青空が背景となって絵のように綺麗だった。
別の地点から見ると、五重塔はよく繁った緑の木に埋まり、あちこち可愛いピンクの花を一杯つけた枝垂れ桜が、周囲の濃い緑とハッキリした対比を見せている。
実に見事な眺めで、下の方に静かに眠っている墓地が厳かな魅力を添えていた。
更に少し行くと、ひっそりとした寺がもう一つあった。
とても美しく荘厳で、清潔で、静寂そのものだったので、私は感嘆のあまり立ち止まって息を飲んだ。
優美な梢が撓んでいる巨大な杉の長い並木道。
この堂々たる自然の大広間の外れにある寺。
その前面には石灯籠が並び、辺りは甘美にもひっそり静まり返って、金色の陽光が木の間を洩れ、それによってできた影と日光の斑が見た目にも快い。
二人の青年がお寺の方へ歩いていった。
長いゆるやかな着物をやさしい春のそよ風になびかせ、無造作に優雅に歩く二人の周りに太陽が金色の光の雨を降らせていた。
この陽光と光景を目の前にしてそよ風に吹かれていると、私はもの悲しいような嬉しいような感情に襲われ、木の下に坐って感極まって泣き出したい気分になった。
それはとても奇妙な感情だった。
更にぶらぶら歩いていくと団子坂に出たが、そこは去年の秋、菊園を見に来たところだった。