Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第29回−8

1877年4月12日 木曜日
いつも日記帳が早く終わってしまう。少なくとも最近はそうだ。きっと書くことが増えているのだろう。
新しい日記帳を買いにヤマト屋へ行ったのだけれど、紙がとても悪くて気に入らないものばかり。
仕方なく、このノートを注文して作らせることになった。なんだか変わっていて糊の匂いがするけれど、これでも結構満足できる。
授業後、お逸と一緒に勝家に行った。
でも、玄関を開けるなり、お逸は端正な顔を顰めた。無言で私の手を引くと裏口に回る。
「ごめんなさい。また父様にお金をねだりに来ている人がいるみたい」
お気の毒に! 毎日勝家には大勢の人が物乞いに押しかけて来るのだ。
お逸とおよねと私は庭に出て、上から下までピンクか深紅色の綺麗な花を一杯つけた見事な椿を眺めた。沢山の桃や桜の木も花盛りだった。
花束を作ってから、お逸に連れられてお蔵へ行くと、そこにはおうちの大事な物がしまってある。
お逸は自分の華やかな彩りの素敵な着物と、豪華な刺繍をした帯を見せてくれた。
また古い本や骨董品と琴があり、お逸たちは琴を家に持ち込んだ。
「お嬢様方、写真を撮らせて頂けませんか?」
義兄の疋田正善氏の勧めで、私はお逸と二人で一つの椅子に坐って撮って貰うことにした。
真面目な顔をしようとするのだけれど、どうしても吹き出してしまう。
何故なら、障子の隙間から梅太郎の黒い目が悪戯っぽく覗いているからだ。
「こら、梅太郎!」
お逸が注意するけれど、彼女も笑っているので説得力に欠けるばかりだ。
それからお逸とおよね、おこまつと私は、辺りに一杯生えている香しい「花嫁の冠」<しじみばな>で頭を飾った。
その後、家の中に入って、絵を見た。
またお逸はお父様の個室へ連れて行ってくれた。
勝提督には、お父様の古い駕籠や古代の鎧、その他、貴重でないにしても、珍しい小間物を見せてくれた。
こんなに沢山の壺やいろんなものを持っていらっしゃるなんて、勝氏は錬金術師なのじゃないかしら?
「うーん、名乗りを上げるなら“骨董の錬金術師”?」
五時半に母が迎えに来たけれど、そのまましばらくいることにした。
お逸とおよねは楽器を持ちだして、二人で月琴を弾き、疋田氏と小太郎が胡弓で伴奏したけれど、この二つの楽器は我々のリュートとバイオリンに相当するものだ。
勝夫人が琴を弾かれ、三種の楽器で日本の国民的な曲「ヒトツトヤ」を奏したのが素晴らしくよかった。
この他に、リュートやバイオリンに歌をつけて独奏したり二重奏をしたりした。
それから勝夫人が月琴を私に渡して下さったので試してみたが、私は扱い方が下手で弦を切ってしまった。
仕方なく今度は、琴を弾いてみたのだけれど、この楽器の音色はとても美しかった。
しかも「主我を愛す」を大変簡単に弾けることがすぐ分かり、おまけに本当に素晴らしい響きだった。
それで帰るまで、みんなで琴の周りに坐ってその有名な賛美歌を歌った。
この日本の楽器がこのような曲を奏するのに使われたのは、これが初めてではないかと思う。