Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

クララの明治日記 超訳版第29回−9

1877年4月14日 土曜日
今日、富田夫人と一緒に松平夫人を訪問した。
高木氏のところにも寄るつもりだったのだけれど天気が悪く、早くから出かけられなかったので時間が足りず、一箇所しか行けなかった。
松平夫人はとてもよくおなりのようで、二つの癌がお体をゆっくり蝕んでいるというにもかかわらず、至極快活で、夜も何とかよくお眠りになれるそうだ。
長居をするつもりはなかったのだけれど、無理に勧められて一緒に夕食を頂いた。
このお宅ではいつも四時に夕食をなさるそうだ。
「急なことで特別なおもてなしは準備できませんでしたけれど、どうぞごゆっくりお食べ下さい」
大人たちが会話をしている間に、おやおさんはアディと私を自分の部屋に連れて行った。
そこはかなり大きな泣き人形から、親指大のちっちゃな人形まで、種々さまざまな人形があった。
松平夫人のお部屋は洋間で、寝台を使っていらっしゃる。
令息は今アメリカにおられるそうだ。
それから私たちは外に出て、絵のような庭園の真ん中にある美しい静かな池で、蟹や小さい魚を捕まえた。
ここの築山と谷はなんと美しく御伽の国のようであることか!
丈の高い木も低い木も、それぞれ一番引き立って見えるように、精密に考えて配置されている。
「きゃっ!」
可愛らしい悲鳴はおやおさんのもの。
蟹を捕っている間に、おやおさんの黄色みを帯びた可愛らしい顔に泥が跳ねかけてしまったのだ。
「クララさん、泥を拭いて頂けませんか?」
困惑の表情を浮かべながら、卵色の顔を向けた様子はなんともいじらしい。
「おやお様、それならわたしが!」
「わたしはクララさんに拭いていただきたいのです」
ここぞとばかりに、おすみが申し出るけれど、おやおさんは首を縦に振らない。
というより、おすみ、いたのね。地の文で全然出番がないからいないのかと。
「おやお様のいるところ、わたしがいなくでどうするのです!」
私はおやおさんの顔を綺麗に拭いてあげた。
すると、今度は「ん!」と可愛らしい声と共に、手を差し出される。
私はその柔らかくてたおやかな手を取り、洗ってあげた。
おやおさんは私と年もあまり変わらないし背丈も同じくらいなのに、本当にその反応は幼子みたいだ。
確かに、お逸は一目見ただけでとても綺麗だと思う。
けれど、おやおさんは愛らしく、だんだんと美しさが増してくる。
帰る前に、おやおさんとおすみと賛美歌を幾つか歌うと、松平夫人は大変お喜びになった。
大名の奥方が作った素敵な財布のようなものを頂いて、帰路についた。