Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第30回−1

1877年4月17日 火曜日
今月はなんと出来事の多い月だったろう。そして今日もまた実に楽しい一日だった。
勝夫人が向島の桜祭に招待して下さったので、十二時に出発した。
勝夫人と玄ちゃんが一台目、母とアディが二台目、お逸と私がその次の人力車に乗った。
お逸はとても派手に着飾っていて、途中で何人もの人が振り返ってその綺麗な顔を見ようとした。
向島へ行く道は外出着を着た人々で混雑していた。
父親たちは堅いハカマを穿いて厳めしく真面目くさり、母親たちは手入れのゆき届いた地味な晴着をまとい、息子たちは洋風の帽子を被り靴を履いて闊歩しながら、綺麗な女の子に晴れやかな流し目を送っていた。
娘さんたちはこの上もなく派手な色合いの装いをして、粉白粉を塗りたくり、苦心してめかしこんだという感じだった。
紙製の風変わりなお面をつけた人が大勢いた。
時には、両親から子供たちまで皆このようなお面をつけた一家もあった。それはグロテスクに見えるけれども<あちこちから吹きつける>埃が顔にかからないようにするのに役立っていた。

さて、私が眺めた情景をどのように描写したらいいだろうか。
頭上のピンク色の桜の花のアーチ、木の間を漏れる暖かい陽光、それに加えて、きらきら輝く川の波の上に時々花吹雪が溶けない雪のように散るさまは、美しい一枚の絵の背景となり、その背景の前に晴れやかに装った群衆が浮かれ気分で群がっているのだった。
道に並んだ茶店や飲食物の屋台に立ち寄っている者もあれば、お面や玩具、お守り、簪、装飾品などを買っている者もいた。
一番よく売れている玩具は、竹の棒の先につけた、羽を広げた格好の大きな色彩鮮やかな蝶々のようだった。
手品師、踊り子、それに狐や獅子の仮面を被った人たちが、お寺の前で何か演じたり、踊ったりしていたが、それは「神様を楽しませる」ためだそうだ。
お酒に酔いつぶれた人たちが千鳥足で歩き回り、仲には馬鹿げた演説をする者もいて、聞き手の群衆は腹を抱えて笑っていた。
お酒の効き方の現れ方が人によって異なるのを見るのは面白い。
とても楽しくなってしまう人もいれば、怒りっぽくなる人もいる。
また一人の老紳士はとても威張った様子で頭をのけぞらせ、できるだけ真っ直ぐに歩き、素面であるように見せるために一生懸命努力していた。
茶店にいたある愚か者は犬に顔を嘗めさせ、周りの女の人たちがきゃっきゃっと笑い転げていた。この国ではとても異例のことなのだ。


「おねえさーん!」
後ろからそう呼びかける人がいたかと思えば、一方からは「ハッタ」と叫んできた。
それでも男女を問わず、子供たちの口から一番聞かれたのは「唐人! 唐人!」という言葉で、正直とても不愉快だった。
しかし翻って考えてみれば、私たちは我が国に来た清国人を「チャイニー」、アイルランド人を「パット」、フランス人を「フケンチー」や「ジョニー」などと呼んでいる。
それはきっといま丁度、私が呼ばれた「唐人」「異人」と同じように、その人たちにとっては不愉快な綽名なのだろう。そう考えたら、私の気持ちは静まった。
やがて勝家の夏の別荘に着くと、そこは美しい桜の木に囲まれていながらも桜祭りの騒音や混乱から離れている素敵な場所だった。
広い庭の中央には池がある。池の両側に絵のような緑の丘が美しい傾斜を見せており、大きな石灯籠が隅々に立ち、石の五重の塔が一際目立っている。
やはり石で出来たお堂が木陰の一隅にあって、云いようもなく巧妙に出来た小さい段々がそこまで続いている。それはオイナリサマで内部に「おめでたい時」を表す赤飯が沢山置いてあった。
丘の頂上の可愛らしい小さな東屋から向島の大通りと川の素晴らしい景色が見渡せた。穏やかな川の面に浮かぶ小舟の純白な帆は、紺碧の天空に漂う小さい白雲さながらだった。
ああ、なんと楽しい時を過ごしたことだろう。
私たちは庭を走り回り、丘を上り谷を下り、五重塔のそばまで高く駆け上がったり、池に駆け下りたりして遊んだ。勝夫人も後からついていらっしゃった。
このように運動したお陰で食欲が増進し、茅葺きの小屋で頂いた食事の美味しかったこと。
夕方の五時に帰途についたのだけれど、途中<日本へ来て初めて>街路上の喧嘩を幾つか見た。
しかし喧嘩の主は大抵滑稽な労働者と商人たち。女の人が逮捕される場面を目撃したけれど、これも大変珍しいことなのだそうだ。頭を切りつけられた男の人も見た。四番目から五番目の喧嘩の場面を通り過ぎながら、お逸の人力車夫の新左衛門が溜息をついて、こう零した。
「酒ってやつは人間を駄目にするな!」
「まったくその通りだ」
私たちの車夫は皆、相槌を打った。