Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第30回−5

1877年5月9日 水曜日
顔を洗って着替えを済ますと、ヤスがお茶と梅干しを持って来た。
「柔らかい砂糖を振りかけて、日本では毎日朝食前にこれを食べるのですよ」
母は好きではないし、アディは食べられず、ウィリイは食べたらとてもむかむかすると云ったが、私は自分の感情を押し殺して一個食べてみた。
朝食後、すぐ江の島を発って湯本へ向かった。
一日中車に乗り続け、丘やでこぼこ道は歩いて越えた。
アディと私は随分歩いたり走ったりしたけれど、人力車というものは、どうしても乗らなくてはならないとなると、実に退屈なものだからである。
道が狭い上にひどく悪くて、人力車ではとても通れない山麓あたりに着いたのはかなり遅い時刻だった。
私たちは人力車を降り、歩いて上り始めたが、ついに駕籠に乗った。これはヨーロッパの椅子駕籠のようなものだが、人が肩に棒を担いで運ぶものだ。最初に母が一台に一人で乗り、アディと私は一台に代わる代わる乗ることにした。
しかし丁度出発しようとした時、駕籠を担いだ二人の人がやって来た。
「自分たちは同じ道を湯本に行くのだから乗っていってくれませんか?」
というわけで、その駕籠に乗ってみたら、私にぴったり。
駕籠の乗り心地は実に素晴らしく、駕籠かきの人たちは大変親切だった。
京都の若いショウテイは私のそばに付き添って、駕籠かきや私に陽気に話していた。
けれど、この高地にも夕闇は迫り、すっかり暗くなって、しばしば通りかかる登山者の姿が黒い影のように見えた。
それからロマンチックな旅が始まった。
湯本に着いてみると、一つしかない旅館は徳川公のお父様、一橋公と随員が泊まっているので、私たちは更に一マイルほど先の小さな村へいかなくてはならなかった。
ここまで私を乗せてくれた親切な人たちは別の方に行くので、アディと私は――かなり窮屈だったけれども――一つの駕籠に一緒に乗っていった。
間もなく村を出て、寂しい山道に差しかかった。
駕籠かきの規則正しい足音と、遠くの滝の轟音の他は、暗い静寂を破る物音は一つもしない。
やがて急流に出たけれど、それは、ナイヤガラのグリーンリバーのように、山腹を激しい勢いで流れていた。
その時キスケが駆けて来たので、提灯のちらちらすら灯りであたりの様子が分かった。
片側には山が真っ直ぐ切り立ち、反対側には急流が息もつかせぬ速さで流れ、その間の狭い山道を私たちは通っているのだった。
幅一フィートぐらいしかなくて、ぬかるみや塗れた石で滑り落ちそうなところも幾つかあった。
それから渡ったあの橋! ああ、このような危険な場所を思い出すと、血が凍り、息が止まりそうだ。
水かさの増した流れに架けられている一本の丸木橋、手摺もなくて、細い竹竿が短い棒に棕櫚縄で結びつけられているだけだった。
それから駕籠とびくびくした乗り手が、あの恐ろしい崖の上で振り回された険しい上り道。アディはひどく怯えてしまったので、元気を出すため私たちは歌を歌った。
しかし、ロマンチックな情景と、事の珍しさに私は心を奪われていて、そこを通り過ぎてしまうまではちっとも怖くなかったし「危険が増せば増すほど勇気が湧いてくる」のだった。
けれど、私がそんなに大胆になれたのは、きっとついて来た車夫たちの陽気なお喋りと、提灯の灯りのお陰だったと思う。
間もなく旅館の看板が見えて私たちは元気づいた。
女主人と女中たちは私たちの様子を見て非常に吃驚し、まるで起き立てのように目を擦りながら外に出て来た。
二階の清潔で綺麗な部屋に通され、すぐに夕食が出た。その後山から直接引いた温泉に浸り、床についた時はくたくたに疲れていた。