Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第30回−7

1877年5月11日 金曜日
今朝はとてもよく晴れていたので、朝早く、塔の沢玉の湯旅館と女主人に別れを告げて、高く険しい山道をまた上り始めたのだけれど、ヤスは少し後に残って、彼をとても持て囃してくれた茶屋の女達と別れをしばし惜しんでいた。
私たちはでこぼこの山道を骨を折って上がって行った。
非常に危険な険しい場所にいるかと思うと、再び平らな草深い台地に出た。そしてまたいつの間にか、人里離れた森の中の道を歩いているのだった。
道の両側に、殆ど熱帯性とも云える木と草が混じり合っていた。桃と棕櫚の木が隣接して生えているところもあれば、無数の竹が、羽のような葉となめらかな幹で、非常に険しく危険な崖を覆っている所もあった。
私はある傾斜の急な場所で、危うく道を踏み外しそうになった。
丁度駕籠から降りたばかりで、道が狭いものだから、駕籠を避けて脇に跳び移った。
それから後に下がって、竹の土手だと思ったところに寄りかかろうとしたのだけれど。
「お嬢さん、危ない!」
駕籠かきの一人が叫んだので跳びのいた途端、足下の土が崩れるを感じた。
振り向いて下を覗くと、とても転げ落ちたくないような場所が目に入った。本当に! それを見たら私は厳粛な気分になってしまった。
この辺に生えているもので比較的少ない植物は百合の木だった。
その他、故国では庭の装飾用に植える赤いらっぱ形の花、野萓草、野薔薇、あやめ、きぼうし、藤、それから無数の名前の分からないとても珍しい植物があった。
森にも、雉やいい声で啼く綺麗な鳥が一杯いた。堂々とした杉や松の古木が素晴らしくよい巣になりそうなのに、栗鼠は一匹も見なかった。
しかし、その代わりに蛇がいて、大きいのを何匹か見た。一度などは、駕籠かきが、大きな蛇が道を通り過ぎるまで立ち止まっていたこともあった!
そのうち芦ノ湖に着いたのだけれど、そこは硫黄温泉のある所で、昼食をすますと私たちはすぐに立ち去った。硫黄の臭いに耐えられなかったからだ。でも他の入浴者は結構、堪能しているらしかった。
芦の湯を後にしてまた旅を続け、とても気持ちのよい田舎を通ってしばらく行くと、こんもりと繁った寂しい森の真っ直中でで、突然、実際に固い岩を刻んで作った大きな地蔵に出くわした。
これは小さい子供の守り神で、周りに多くの子供が埋葬されており、死んだ子供たちの履き物や玩具などが、その像の腕の中や足下に散らばっていた。
石像は蓮の上に坐っているように作られ、顔は大変慈愛に満ちた表情を浮かべており、手には子供の魂を抱いているという。私たちは岩の苔を少し取ってからそこを離れた。


丁度ここから箱根の湖が見えて来たが、とても美しかった――穏やかに澄んだ水が草に覆われたまろやかな丘に囲まれ、その丘が透明な湖上に影を映している。これに平和に草を食む白い羊の群れがいさえすれば、完全な一枚の絵となっただろう。
ウィリイが一人でどんどん歩いて、真っ先にそこへ着いた。
茶屋に入ると、私たちは荷物と駕籠を茶屋に残し、案内役と称する女の人についてお寺の方へ歩いた。
丘の上に建っているそのお寺は長い段々を上ったところにあった。母とアディと私が先に立ち、セイキチ、ヤス、キスケ、ショウテイといった随員が続いた。
謂われのある物について語るショウテイの説明はとても興味深かった。
彼によると湖は長さ三里、幅二里の広さだと云うが、信じられなかった。
大きな石の傍らで立ち止まったが、それは頼朝が小舟を繋いだ所で、石に空いている穴は頼朝が鉄の釘を打ち込んで作ったものだそうだ。
少し先に、お釜のような巨大な鉄の鍋があったが、それは頼朝がお茶を飲むのにお湯を沸かした容器だと、案内人が云った。きっと多量の薬草を飲んだに違いない。
またもう少し先に、案内人によれば、六百年前に建てられたという石の神社があった。
しかし、江の島で見た地蔵は千二十九年前のものであり、鎌倉の観音像は千三百年前のものだ。