Fate雑記(士凛特化)&血だまりスケッチ こと 魔法少女まどか☆マギカ観測所

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クララの明治日記 超訳版第30回−8

1877年5月12日 土曜日
昨晩泊まった旅館は鎌倉屋という名で、主人は非常に感じのよい人だったのだけれど、暗さと湿気が耐えられなかったので、雨と霧の中を出発した。
下るにつれて段々明るくなり、芦の湯に着くまでには太陽が照りだした。
しかし山の頂上にはまだ霧がかかっていた。私たちは芦の湯では泊まらず、下り続けて宮の下へ行き、奈良屋に入ったが、天皇陛下が京都にいらっしゃる時御休憩になる、地の利を得た綺麗な旅館だった。
陛下のお泊まりになる部屋は誰も使ってはいけないので、私たちはその隣の部屋に泊まった。宿の人たちは陛下のお部屋を畏敬の念をもって扱い、夜はそこにずっと明かりを灯していた。
私たちの部屋の畳の縁は薔薇色の絹なのに対し、陛下の部屋のは豪華な白と金の錦だった。
こちらの蚊帳の吊り手が鉄であるのに対し、あちらのは真鍮で、絵を掛ける釘は銀だった。
また立派な掛け物と刀架があったが、私たちの部屋にはなかった。
しかし、別段この大君主が羨ましいとも思わず、その部屋を居間として好きな時にとても気をつけて使い、アディはそこでお祈りをした。
母は按摩さんに按摩をして貰った。その人は皇后様を按摩した人だったが、別に光栄だとは思わなかった。
私たちの部屋の隣には、父親が英国人で母親が日本人の家族がいて、数人の子供はとても器量がよかった。ご主人は奥さんに大変優しかったけれど、上流階級の人たちではないようだった。絶えず粗野な大声で笑ったり話したりしていて、それに赤ん坊の泣き声が加わり、私たちのような静かな一家には正直なところ不愉快だった。特にお祈りをしたり、私たちの主な仕事である読書をしたい時にはそう感じられた。
「お客様、今日は離れが開いていますが、如何でしょうか?」
女主人が彼らを、上手くここから離れた部屋にそっと移してくれた気遣いには驚いたけれど、同時にとても嬉しかった。
お陰で私たちは静けさを楽しむことができた。この階にはもう一家族おり、やはりご主人が外国人で奥さんが日本人だったが、子供が一人でそれも随分大きかったから、ずっと静かだった。
部屋の前に綺麗な庭があり、三つの池に魚が一杯いたのでクラッカーを与えた。
この庭の向こうには丘が果てしなく重なり合って続いていた。